第19話 知恵と力を貸してください!

 とは言ったものの、どうしよう。

 おかきくんがいるのが溝蓋の真下だったら、蓋を外せば助けられるだろうけど。生憎いるのは、そこから奥に行った蓋の無い場所。

 どうしてそんな所にいるかなー。まさかコンクリートの地面に、穴を開けるわけにもいかないし。


「とりあえず、おかきのいる所の、一番近くの溝蓋を外してみよう。手を伸ばせば届くかも」


 それしかないよね。

 安達くんは一番近くにある溝蓋まで行くと屈んで、持ち上げようと隙間に指を入れる。だけど。


「ダメだ。全然持ち上がらない!」


 安達くんは外そうとしているんだろうけど。見ているこっちからは持ち上げようとしてるかしてないかも分からないくらい、溝蓋はピクリとも動いていない。

 無理もないか。コンクリートでできた蓋なんて、ただでさえすごく重たそうなのに。ブロック同士は敷き詰められるように並んでいて、手がが掛けられそうなのは、排水用の小さな隙間だけ。

 ブロックの左右に2か所、穴が空けられているんだけど。正確には手が掛けられると言うより、指を入れるのがやっとの、本当に小さな隙間だった。


「やっぱ無理かー。さっきアタシもやってみたんだけど、そもそもその蓋厚みがあるから、ブロックの下に指引っかけて持ち上げられないんだよね」


 アリサさんが言う。

 つまりブロックの両側面の穴に指を入れて、摩擦だけで持ち上げろってこと? 無理でしょそんなの!


 しかもこの溝蓋はかなりサイズが大き目で、いったい何キロあるの?

 安達くんも、持ち上げるのを諦めて立ち上がる。


「このままやってても拉致があかないか。けど、何か方法はあるはずなんだよなー。こういうのって工事の人とかが、たまに取り外してるだろうから」

「そう言えば、見たことあるかも。けどこんな重くて持ちにくいもの、いったいどうやって取り外してるんだろう? MARIOくんや雪ちゃんは、知らないよね?」


 ダメ元で小学生組に聞いてみたけど、案の定二人とも首を横にふる。

 その間にも、助けを求めるような「ニャーニャー」って声が聞こえてきて、気持ちだけが焦っちゃう。

 何か、何か方法は……あ、そうだ!


「良いこと思い付いた。もしかしたらこれなら」

「え、取り外し方が分かったの?」

「ううん。それはまだ分からないんだけど。だったら聞けばいいんだよ、アオハルチャレンジをやってる皆に!」


 急いでスマホを取り出すと、まずは溝蓋の写真を撮る。

 そしてツブヤイターを開いて、ペット探しの呟きに付属させる形で、撮ったばかりの写真を貼り付けた。

 そしてさらに。


【急募! 猫ちゃんを見つけたけど、溝の中入って出てきません。誰かこの溝蓋を外す方法知りませんかー!?】


 投稿! 

 すると、それを見ていた安達くん達が目を丸くする。


「そうか、ツブヤイターで情報を募ればいいんだね。その呟き、俺の方でも拡散しておこう」

「アタシも。MARIOもやってくれる?」

「うん、分かった」


 雪ちゃんはスマホを持っていないからできなかったけど、アリサさんにMARIOくんが拡散してくれる。

 すると、すぐに反応がきた。


【この中に猫がいるんですか? 怪我してないか心配です】

【地面の下にいるなら、ドリルで壊してるのを見たことある】

【力になれそうにありません。けど、やり方教えたらその人も、間接的にアオハルチャレンジ成功に貢献できるって事ですよね。誰か教えてあげてー!】


 寄せられてきたのは、心配の声や実現不可能な方法ばかり。


 どうしよう。情報を求めたはいいけど、結局分からなかったら助けられないよ。

 だけどふと横を見ると、心配する私とは逆に、安達くんは笑っていた。


「すごい、あっという間に反応があった」

「うん……でもこれじゃあ、肝心の助ける方法が分からないよ」

「何言ってるの。こんなにすぐに反応があったってことは、注目されてるってことじゃん。だったらきっと、良い方法だって送られてくるって」


 ……そうかも。

 まるで心配していなさそうな、前向きな答にビックリ。

 そうだよね。まだ呟いたばかりなんだから、答が分からないのは仕方がない。けど、それでも応援してくれる人はいるんだもん。よく考えたらこれって、すごく心強いよね。


 安達くんの言葉で、不安になっていたのが嘘みたいに前向きな気持ちになる。

 彼のポジティブさは、こういう時本当に頼もしいなあ。

 すると、言ってるそばから新しい返信が届いた。


【写真見ました。これなら排水用の隙間にバールを突っ込んで持ち上げたら、外れますよ】


 キター! 待ちに待った蓋の外し方だー!


「そうか、バールか。思い付かなかったよ」

「バールってあの、よくニュースで『犯人はバールのような物で窓ガラスを割った』なんて言ってるあれ? こういう使い方もあるんですね」

「雪、たぶんこういうのが本来の使い方だってば」


 亜子ちゃんの発言にMARIOくんがすかさず突っ込んだけど、実は私も同じこと思ってた。

 すると、続けてもう一つ返信が送られてくる。


【だけどこの溝蓋、かなり大きいやつっぽいですね。この写真だけだとよく分かりませんけど、40~60キロくらいあるかも。もっと軽い溝蓋もあるのに、よりによってこれですか】


 返信を見て目を丸くする。

 え、そんなに重いの!? 軽くはないだろうなって思っていたけど、想像より重くてちょっと引いて。他のみんなも難しい顔をする。


「軽くても40キロ……わたしよりも重い」

「あ、うんうん。私よりも重いよ」

「アタシの倍はあるね。こんなの本当に、バールだけで持ち上げられるの?」


 体重軽いアピールをする女性陣。倍はあるって言ってたアリサさんは疑わしかったけど、触れないでおこう。

 女子にとって体重はトップシークレットだし、それに実は私も……。

 すると、安達くんが呆れた顔をする。


「体重なんてどうでもいいじゃん」

「よ、良くはないよ。女子にとって体重って言うのはねえ……」

「その話は後。今このはブロックをどうにかしないと。バールって、ホームセンターに売ってあるよね。ちょっと行って買ってくる」

「私も行く。アリサさん達は、ここで待っててください」

「あいよ。けど急いだ方がいいね。いつ雨が降るか分からない」


 アリサさんにつられて空を見ると、灰色の雲はさらに濃さを増している。

 もしもおかきくんが閉じ込められたまま、雨が降りだしたら……。


「マズイね。溝に雨が流れこんだら、危ないかも」

「ど、どうしよう?」

「とにかく、急ぐしかないよ。じゃあ、行ってきますね」

「ああ、急いでね」


 アリサさん達に見送られながら、近くのホームセンターに急ぐ。

 お願いだから間に合って!

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