最終話 これからもチャレンジを

 おかきくんを救出してからフミ子さんの元に届けた私と安達くん。

 フミ子さんは泥だらけで現れた私達にビックリしたけど、おかきくんを見るととても感激してくれて、何度もお礼を言われた。


 おかきくんはまるで何事もなかったみたいにお家の中でゴロンとしてたけど、猫って本当に気まぐれだなあ。

 けどそこが可愛いんだってフミ子さんは言っていて。きっとそういうものなんだろうなあ。


 家に帰った後は盛大に制服を汚したせいでお母さんに怒られちゃったけど、しょうがないか。

 そしてそれから3日。私達の周りでは、ちょっとした出来事起きていた。


「ねえ、あの二人じゃないの? SNSで話題になってた」

「ああ、アオハルチャレンジを成功させた先輩かあ」


 昼休み。安達くんと一緒に廊下を歩いていると、私達の事を話す声が聞こえてきて、視線を感じる。 

 実はあれから、私達はちょっとした有名人になっていたの。


「なんか、凄い事になっちゃったね」

「まああれだけ拡散されたんだから、有名にもなるか」


 顔を見合わせて、照れながら笑う。

 きっかけは、あのアオハルチャレンジ達成の呟き。信じられない数の『いいね』と拡散がされて、まさかの大バズリ。

 それまでアオハルチャレンジを知らなかった人の目にも止まったみたいで、学校でもまるでヒーロー扱いされちゃったの。

 助けた次の日には千鶴ちゃんや留美ちゃんから、おめでとうって言われて。ちょっとくすぐったかったけど、悪き気はしなかった。


「そういえば。アリサさんや舞茸さんも、学校でヒーロー扱いされてるらしいよ」

「ぐるぐるくんや、MARIOくんもね」


 あの時のメンバーとはあの後相互フォローして連絡を取り合うようになったんだけど、どこも盛り上がってるみたい。

 猫一匹助けただけなのに、ずいぶん凄い事になっちゃった。


 捜索願いが出されているペットを見つけるというアオハルチャレンジは、過去最高の難易度だったけど。それでも何人かはチャレンジを達成させ、結果何匹ものペットを飼い主の元に帰してあげる事ができた。

 迷子になっていた犬や猫、それに小鳥達を保護した時の写真はツブヤイターで拡散されて、中には飼い主と再会した時の写真も投稿されたけど、飼い主さんはとても幸せそうな顔をしていたよ。


 ふふっ。アオハルチャレンジをやってて良かったなあ。

 SNSを通じてたくさんの人が集まって協力して、エールや祝福の言葉も、いっぱい送ってもらったもの。


 きっとこういうのが、ネットやSNSの正しい使い方何だって思う。



 前にアカウントを削除した時には、SNSを使って攻撃されて、嫌な思いをしたけど。誰かを傷つけるより、助け合うために使った方が良いものね。


 そんなことを思いながら、歩いていると……。


「ん? ねえ、あれって泉さんだよね」

「え?」


 安達くんが指差した先。廊下の向こうには、香苗ちゃんがいたけど。それを見て、私はピタリと足を止めた。

 だって香苗ちゃんの前にはキリエちゃんが、何だか怒ったような顔をして立ってるんだもの。

 さらに後ろには取り巻き達もいて、香苗ちゃんに詰め寄っていた。

 そしてキリエちゃんの手にはスマホが握られていて、香苗ちゃんに突き付けている。


 何だか嫌な予感がして、私達は足を止めると、離れた所から話に耳を傾けた。

 すると。


「香苗。これ、あんたよね。灯なんかと仲良くして、なに考えてるわけ?」


 えっ、私?

 責めるような言葉を浴びせられて、香苗ちゃんはダンマリ。気まずそうに視線を反らしている。


「何とか言ったらどうなの? 一緒に猫助けるなんて、ずいぶん仲良しじゃない」

「天宮さんがキリエに、何したか忘れたの?」

「あんなのと仲良くするなんて、友達を裏切る気? 最低だよ」


 断片的に聞こえてくる会話。

 別に私がキリエちゃんに何かしたわけじゃなくて、向こうが勝手に逆恨みしただけなんだけど、色々と気になる。

 私と仲良く? 猫を助ける? それってあの、おかきくんを助けた事を言ってるの?


 あの呟きはバズッたから、キリエちゃんが目にしても不思議じゃない。そしてあの時撮った写真には、香苗ちゃんも写っていたはず。

 まさか、それで責められてるの?


「天宮さん、あれって……」


 安達くんも気づいたみたいで、顔を見合せる。

 どうしよう。私を助けたせいで、責められるなんて。

 できることなら、今すぐ止めてって言いたい。だけど、足がすくんじゃう。


 廊下を通る生徒はポツポツといたけど、触れちゃいけないって空気を感じたのか、誰も関わろうとはせずに。視線を送りながらも、素通りしていく。


 だけど……何だろう、この既視感。こんな光景を、前にも見たことがある気がする。

 そうだ……これは前に、私がキリエちゃん達にされてた事だ。


 あの頃は私が責められる側で、気づいていた人達も関わろうとはしないで、流されていたっけ……安達くん以外は。


「なんかヤバそうじゃない? 早く助けないと……天宮さん?」


 安達くんが言った時には、私はもう歩き出していて。キリエちゃん達の側まで来て、言い放った。


「文句があるなら、私に言えば?」

「は……灯?」


 キリエちゃんは驚いた顔をして、香苗ちゃんも目を見開いて私を見る。


「キリエちゃんら1年生の頃から、全然成長してないよね。気に入らないからってよってたかって一人を責めて、バカみたい」

「なんですって!?」


 怒りの矛先を、こっちに向けてくる。

 1年生の時の記憶がフラッシュバックして気持ち悪くなったけど、それでもめは反らさない。

 関わらずに素通りすることもできたけど、空気を読んで何もしないなんて嫌だ。気づいたなら、何とかしないと。

 安達くんが、手を差しのべてくれたように。


「行こう、香苗ちゃん。私達悪いことしたわけじゃないんだから、黙って言うこと聞く必要事ないよ」

「えっ……う、うん」

「待ちなさい!」


 香苗ちゃんの手を取ろうとしたけど、その瞬間キリエちゃんが掴みかかってきた。


「あんた、調子に乗ってるわね。まあいいわ。この『トモシビ』ってアカウント、あんたでしょ。また炎上させてあげるから、覚悟しなさい」


 ──っ! 私のアカウントも、もうバレてる。

 キリエちゃんとはクラスは離れたから学校での影響力は薄れているけど、SNSでなら攻撃できるって思ったのか、意地悪な笑みを浮かべている。

 このままじゃ、また居場所を奪われるかもしれない。そう思ったけど……。


「はいはいそこまでー」


 この場に似つかわしくない明るい声。

 パンパンと手を叩きながらやってきたのは、安達くんだった。

 枯れ葉私達の間庭って入ると、キリエちゃんに目を向けた。


「君、1組の久住キリエさんだよね。今の話聞かせてもらったけどさ、SNSを使って攻撃するのって下手したら犯罪になるんだよね。知らなかった?」

「は? 何よいきなり。そんなわけないでしょ」

「そう、だったら試してみる? 内心にも響いて、受験にも不利になるかもしれないけど。言っとくけど俺のおじさんに、こういう問題に強い弁護士がいるから」

「──っ!」


 安達くんはニッコリしているけど、目は笑っていない。

 キリエちゃんも、まずいって思ったのかな。バツの悪そうな顔をしながら、私達にに背を向けた。


「もういい。あんた達、行くわよ。それと香苗、あたしに逆らったこと絶対後悔させるから、覚悟しなさい」


 捨て台詞を吐いて、取り巻きの子達と一緒に去って行く。

 ……良かった、行ってくれた。するとキリエちゃん達の後ろ姿を見ながら、安達くんが口を開いた。


「ま、おじさんが弁護士だなんて、ウソだけどね。天宮さん、大丈夫だった?」

「私は平気。香苗ちゃんは? 大丈夫?」

「うん……それより、どうして助けたの? 私は、灯を見捨てたのに……」


 気まずそうに目を反らす香苗ちゃん。1年の頃、仲間外れにした時の事を言っているのかな。

 確かにあの時は辛くて、友達なのにどうして助けてくれないのって、恨みもしたよ。だけど。


「いいよ、もう終わった事なんだから。私は、済んだことをいつまでもゴチャゴチャ言う女じゃないの!」


 胸を張って言い放つ。

 本当はね、あの時助けてくれなかった香苗ちゃんの気持ちが、少しわかったの。

 さっきキリエちゃんに責められてる香苗ちゃんを見て素通りしたいって、ちょっと思ったもの。

 もしも私が仲間外れにされたのと順序が逆だったら、どうなってたか分からない。

 だけど今は、これが私のやりたいことなんだ。


「灯……ありがとう。安達くんもありがとう、助けてくれて」

「そんなの当たり前だよ。友達じゃん」

「友達?」

「うん。一緒におかきを助けた仲でしょ」


 当然と言う風にニカッと笑う安達くんを見て、私も香苗ちゃんも思わず吹き出した。


 まったく安達くんは、ビックリするくらい光属性だなあ。

 苦しんでいる人がいたら迷わず手を差し伸べるし、誰とでもすぐに友達になれる。そんな彼のおかげで私は救われて、勇気も出せたんだと思う。


 キリエちゃんのあの様子だと、もしかしたらまた何かやってくるかもしれないけど。

 大丈夫、もう負けたりしない。私はもう、一人じゃないんだから。


「そういえばさ。泉さんもこれからも、アオハルチャレンジやっていかない? 俺の勘では、今日辺り新しいチャレンジが投稿されると思うんだ」

「え、私も?」

「いいんじゃないの。チャレンジのは簡単だし、きっと面白いよ」


 笑いながら内心、新しいチャレンジは何を投稿されるとしようかなーって、考えを巡らせる。

 チャレンジを決めないといけない、アオハル仕掛人は大変なんだから。


 だけどそれでも、辛いことや苦しいこともある毎日を、楽しいものにするために。

 アオハルチャレンジは、これからも続いて行くのです!



  了



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アオハルチャレンジ! 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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