第4話 最悪の出会い
よく、恋をすると世界が変わるって言うじゃない。
前はそれがよく分からなくて、そんなものなのかなーって思っていたけど、今なら言える。
恋をすれば、世界がガラッと変わるんだよ!
だけどね。最初はそんな、いいものじゃなかったんだよ。だって出会った時、私は人生最大のドン底にいたんだもの。
あれは1年生の終わり頃。まだ寒さの残る、3月の初めの出来事。
授業が終わって放課後になって。私は校舎を出て、校門に向かって歩いていたの。
靴をはかずに、靴下で。
グラウンドからは運動部の声が聞こえてきて、下校する生徒達が何人もいる中、私は足の裏に痛みを感じながら、靴下で外を歩いていた。
だけど足よりも、もっと苦しいのは胸の奥。
だってこの時靴を履いていなかったのは、隠されてたからなんだから。
しかも隠したのは、ちょっと前までは仲が良かったはずの同じクラスの女の子。キリエちゃんと、そのグループのみんなだって分かっていたから。
キリエちゃんも他の皆も、中学に入ってから仲良くなった子達。1学期2学期と同じグループだったけど。少し前から、私は彼女達からハブられていた。
そうなった理由は簡単。
どうやら私は、キリエちゃんの好きな男の子を、取っちゃったみたい。
ううん。本当は、取ってないんだけどね。その男の子とは席が隣で、普通に話をして仲良くしてたんだけど。キリエちゃんはどうやらそれが気に入らなかったみたいで。ある日のこと……。
「ねえ、灯。これ以上彼と話したり、仲良くしたりしないでよ。友達なら、分かってくれるよね?」
キリエちゃんはそう言って、って釘をさしてきたの。
好きな人が他の女子と仲良くしてるのが、面白くなかったんだと思う。
当時私は恋というものが良くわかってなかったけど、そういうものだって言うのは分かった。
だけど……。
(いくらキリエちゃんのお願いでも、友達に言われたから仲良くするのを辞めるって、失礼じゃないかなあ?)
私も、それにその男子だって、キリエちゃんが心配しているような事は思っていないはず。
なのにいきなり会話をしなくなったら、嫌な気持ちをさせちゃうと思う。
もちろん、キリエちゃんの言いたいことも分かるけど……。
「待ってよ。キリエちゃんが好きなのはわかったけど、だからって仲良くするななんておかしくない? 大丈夫、普通に友達なだけだから。心配するようなことはないって」
隣の席の彼ともキリエちゃんとも、友達として仲良くしたくて、そう答えた。
大丈夫。後ろ暗い事はないんだし、ちゃんと話せばキリエちゃんだって分かってくれる。
そう思ってたんだけど……。
これがもう大失敗。どうやら私はキリエちゃんを怒らせちゃったみたいで、次の日から友達の好きな子を取ろうとする極悪人ってレッテルを貼られちゃったの。
グループから追い出されて、話し掛けても無視されて。特に一番仲の良かった香苗ちゃんにまで拒絶された時は、ショックだった。
「ごめん。灯とはもう喋るなって、キリエに言われてるの」
「そんな……」
「灯りも早いとこ、キリエに謝った方がいいよ。何なら、私が仲裁してあげるから」
諭すように言ってくる香苗ちゃんだったけど、頭の中が真っ白になって、言葉がまるで入ってこなかった。
(ひどいよ。私が何をしたって言うのさ!)
で、しばらくすると無視されるだけじゃなくて嫌がらせを受けるようになって。教科書を隠されたり、机に「バカ」だの「学校に来るな」だのと言ったラクガキをされたり。
中でも一番こたえたのは、学校の裏サイトにあること無いこと書かれたこと。
男好きだとか、友達の彼氏を取る酷いやつだとか。実名こそ出されていなかったものの、誰の事を言っているか、分かる人には分かるような書かれ方をされていて、結果私のツブヤイターの方がにまで荒しがくるようになった。
裏サイトで言われてる事なんて嘘ばっかりなのに、いくら言っても信じてもらえなくて、知らない人からのバッシングの嵐。
耐えきれなくなった私はこの時一度、ツブヤイターのアカウントを削除したんだよね。
意地悪言ってくる人ばかりじゃなかったのに、フォローしてくれている人もたくさんいたのに、それらを全部消してしまったの。
これ以上悪意のある言葉を、見たくなかったから。
だけどアカウントを消しても、現実の嫌がらせまではなくならずに。
この日も、帰ろうと思って下駄箱に言ったら、靴が無くなっていたの。
(靴が無い……どうして?)
するとクスクスと笑う声が聞こえてきて、振り向けばキリエちゃん達が私を見て、ニヤニヤ笑っている。
それを見て、キリエちゃん達の仕業だって確信したの。
(きっと靴がなくなって困ってる私を、見物に来たんだ)
愕然とする私を、笑ながら見るキリエちゃん。隣には香苗ちゃんもいて、申し訳なさそうに目を反らしていたけど、助けてはくれない。
もう悲しくて悔しくて辛くて。そんな自分が見世物にされてるみたいで。たまらなくなって、校舎の外に飛び出したの。
すでに上履きは脱いでいたから靴下で外に出ちゃったけど、こんな場所に1秒たりともいたくなかったから。
そうして逃げて、とぼとぼと歩いていたと言うわけ。
靴を履いていない足は冷たいし痛いしで最悪。そして何よりそんな自分が惨めすぎて、気を抜くと涙がこぼれちゃいそう。
私が靴を履いてない事に気づいたのか、近くを歩く生徒の視線を時折感じたけど。関わりたくなかったのか、声を掛けてくる人はいない。
けど、その方が良かった。下手に同情なんてされたら、余計に惨めになっちゃうもの。
このまま誰にも声をかけられずに、家まで帰りたい。そう思ってだけど……。
「君、靴はどうしたの?」
突然肩を掴まれて、強制的に足を止めさせられる。
驚いて振り返ると、そこには可愛らしい顔をした男子が一人。何故かカメラを手にしながら立っていた。
(……この人、見たことある。名前は知らないけど、たぶん同じ1年生の、別のクラスの男子だよね?)
彼は目を丸くしながら私の足を、まじまじと見つめている。
「靴下で歩くとか、痛くない? ひょっとして、靴を忘れたとか?」
本気で言ってるのか、からかっているのか、そんなことを言ってきて。確かなのは彼の言葉が、辛うじて涙を止めていた私の心を、壊してしまったって事。
どうしてそんな事聞くの? 同情されたって、余計にみじめになるだけなのに。
話しかけられたくないって、分からないかなあ!
空気を読んで放っておいてよ!
さっきまで我慢できてたはずなのに、悲しい気持ちが溢れてきて、堪えていた涙が頬を伝った。
「ちょっ、なに泣いて……ごめん、俺、変なこと言った?」
「……言った。すっごく余計なこと言った! 放っておいてくれれば良かったのに!」
「そういうわけには……君、ちょっとこっち来て!」
「えっ? ちょっと待ってよ!」
彼はこっちの話なんて聞かずに、強引に手を引っ張っていく。
「放して、放してってば!」
「ヤダ。泣いてる子を、放っておけないだろ!」
はぁ? 私の意見は無視ですかー!?
ここは空気を読んでそっとしておくとこなのに。男子って、どうしてこう勝手なんだろう。
だけど振りほどこうとしても、ビクどしない。
顔は可愛いのに、やっぱり男の子。意外と力は強いみたい。
そうしてあれよあれよと言う間に校舎の中に連れて行かれて、やってきたのは部室棟にある部屋。
後で分かるんだけどそこは写真部の部室で、小さな棚と長机が一つある以外は、壁にパイプ椅子が立て掛けてあるだけの、殺風景な部屋だった。
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