第24話「渋谷2号ダンジョン最奥」

“うおおおお! にゃんぴもつよ!”

“れいぽむ! かわいい! 最強!” 1,000円

“にわかか? しんかいチャンネルは魔法見るチャンネルだぞ”

“魔法をCGとか言い続けてきた古参がなんか吠えてるな”


 虹愛にあがカギ爪で引き裂いたナーガを吹き飛ばし、玲菜れいなが体長5メートル以上もある三角鎧竜トライセラー・バレットの首を切り落とす。

 同時に海流かいるが飛び回るガーゴイルを数体、雷で撃ち落とすと、周囲のモンスターで動くものは居なくなった。


「ふぅ……イケるな。18階ってもっとヤバいのかと思ってたが」


「れいぽむとは戦闘の連携取りやすくてええですねぇ」


「うん、にゃんぴが考えて合わせてくれるから、すごくやりやすい」


“なかよしさんだぁぁぁ!!” 500円

“美少女の競演……尊い” 1,000円

“しんかいてめぇうらやましい!”


 チャット欄が盛り上がり、海流はマスクの下で笑った。

 二人が前世で命がけの戦いをした間柄だとは誰も知らないだろう。

 エリュシオンでは立場の違いから敵対することにはなったのだが、仲良く肩を並べて戦う二人は、前世を知る海流にとって夢のような姿だった。

 それに、チャンネルとしても喜ばしいことだ。

 玲菜の人気は元からだが、虹愛にもそれなりに元からのファンは多い。

 今までオーバーサイズのパーカーとさすまたがトレードマークだった虹愛が、和風で胸元の広くあいた衣装に身を包み、縦横無尽に動き回る姿は、元からのファンにも受け入れられ、さらに玲菜との連携にも注目が集まった。

 どこまでもスリムで筋肉質な玲菜と、身長が低く、出るところが不必要なほど出ている虹愛は、いいコンビだった。

 もちろん、WDO公認の『世界一のマジック・キャスター』である海流にも、ファンは増え始めている。

 つまり今やチーム『GYU-TAN!』は、人気だけであれば世界トップクラスのチームとなっていた。


『しんかいさん、その先、大きな扉の前が侍ismの通信途絶ポイントです』


「おっし、一回休憩、補助強化魔法ぜんぶ張りなおすぞ」


 侍ismのサポートメンバーからの通信に、海流はシールドを展開する。

 モンスター感知レーダーに反応がないことも確認して、ガーゴイルの残骸に腰を下ろした。


「カイル、侍ismさんたちの命がかかってるんだよ、あたしたちなら大丈夫だから、休憩なんかしてないでいそごう」


「そうですねぇ。せっかくの初『救援ミッション』ですし、ぜひとも成功したいですねぇ」


「まぁあせるな。オレもそんなに長時間休憩する気はねぇよ」


 配信画面は例の水着画像に差し替えてある。

 一度衣装も含めすべての魔法を停止して、海流は最初から魔法を再構築し始めた。


「魔力管制再開。ステータス管理。モンスター感知。隠匿開始。放出魔力制限解除。シールド展開。完全毒耐性付与開始――」


 海流曰く、魔力はグラフのような1次元ではなく、3次元に組み合わせる立方体のようなものらしい。

 同じ魔力を持つものでも、その並べ方、組み合わせ方によって使える総量が変わってくる。

 18階まで登って来るうちに継ぎ足して使用してきた三人分の補助・強化魔法も、並べなおせばより少ない魔力で使うことも可能だ。


「――ドローン制御再開。っと、まぁそういうことだ」


「はぇ~初めて聞きましたぁ」


「エリュシオン世界でも『魔力総量』って概念はあったがな、オレの『魔力領域』っていう考え方まで到達できたのはごく一部のマジック・キャスターだけだ」


「あいかわらず魔法ヲタよね、カイル」


「ヲタじゃねぇ。あとレイナ、配信中はカイルって呼ぶな、しんかいって呼べよ。オレもれいぽむって呼んでるんだからな」


「え? あたしカイルって言ってた?」


「めっちゃ言ってましたよぉ」


「まぁ気づいたところはオレが『ピー』入れといたけどな」


「ごめん、気を付けるね、カイ……しんかい」


 はは……と頬を指先でかく玲菜を背後に、海流はライブ配信を再開する。

 チャット欄は再び盛り上がる。

 ドローンは上昇し、暗闇の先にかすかに輝く巨大な扉を映し出した。


「じゃ、侍ism救援ミッション行くぞ!」


「うん!」


「がんばりますよぉ!」


“おお! ついに!”

“これ成功したらGYU-TAN!が世界ランク2位になるの?”

“れいぽむきをつけて!” 500円

“にゃんぴもケガしないようにね!” 500円

“しんかいは二人を絶対守れよ!”


「まかせとけ! 二人にケガさせたらオレがたたかれるのわかりきってるし」


“それでこそしんかい!”

“自分の立場理解してるの草”


 チャット欄といつものやりとりをしながら、海流たちは暗闇へ向かう。

 扉に近づくにつれ、ズズズ……ともゴゴゴ……とも聞こえる地鳴りのような音が、周囲を満たし始めた。

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