第20話「ドラゴンスレイヤー」
そこから数回、
普段は
魔力の消費は多かったが、それでも、過保護なほどに玲菜に重ね掛けする強化・防御魔法の魔力消費と比べれば、ちょっと楽か、行ってもまぁトントンといったところだった。
「その、……しんかいさんお疲れじゃないですか?」
侍ismのスタッフが小さく声をかける。
どう見てもお疲れなのは竜輝の方なのだ。これは暗に「そろそろ引き分けってことにしませんか」という提案なのだが、それをわかってなお、海流はうやむやで終わらせることを良しとしなかった。
「あ、ぜんぜん大丈夫っす。お気遣いありがとうございます」
わざと竜輝たちに聞こえるように、にこやかに答える。
何とも言えない笑顔で「はは、それはよかった」と答えるしかないスタッフを見て、玲菜も思わず噴き出した。
「クスッ。あの、そろそろ配信時間も長くなりましたし、次で最後にしませんか? りゅうきさんがモンスターを倒したら引き分けってことで」
「あ、そうですね! れいぽむさんもしんかいさんも学生さんですし、残念ですが時間切れということで!」
玲菜の助け舟に、スタッフが全力で乗っかる。
マジックキャスターとしての実力という点において、海流と竜輝に大きな隔たりがあるのは誰の目にも明らかだ。
だが今後の活動のためにも、「負け」で終わらせるわけにはいかない。
そんな空気を感じて、海流はマスクの下で不機嫌な顔をした。
「それじゃ、次で最後です」
モンスターを引き付ける役の冒険者に連絡が行く。
それと同時に、ダンジョン内に悲鳴がこだました。
海流のモンスター検知レーダーに巨大な光点が現れる。
無言のまま海流は手を伸ばし、玲菜にいつもの鎧と強化・防御魔法を重ね掛けした。
その意味を即座に理解し、玲菜は海流の横に並ぶ。
肩を並べた二人と、侍ismのメンバーの正面に、黒々とした影がのそりと姿を現した。
最初に見えたのは、一抱えもありそうな太さの長い首。
ズシ……ともう一歩踏み出すと、軽自動車ほどもある体が壁の一部を破壊した。
金属のような光沢をもつ鱗。分厚い
長いしっぽ、立派な二対四本の角。
その姿は、今まで誰も実物を見たことがなくても、誰もが知っていた。
全長で言えば20mほどもある――ドラゴン。
本来地下18階――つまり最下層――にしか現れないはずの怪物は、転げるようにして逃げる侍ismのサブメンバーを追いかけ、口から溶岩のように粘度のある炎を噴き出した。
“うわっ! ドラゴンだ! 初めて見た!”
“やっちまえしんかい!”
“火ぃ吐いてる!”
“れいぽむきをつけて!” 500円
「くそっ! まさか10階にドラゴンなんて!」
「しんかいくんたちは下がって!」
現・世界冒険者ランク8位の強豪チームである。
しかし、さすがの侍ismもドラゴンには出会ったことはない。
それでも冷静に戦闘の陣形を取り、スタッフを後ろに、サブメンバーも迎撃の用意を整えた。
グラスファイバー製の斧や、巨大なハンマーなどを装備した彼らの攻撃能力は世界トップクラスとされている。
しかしその攻撃も、ドラゴンの硬く滑らかなうろこには、ほとんど通用していなかった。
「だめだ! ダメージ通らん!」
「くそっ! いったん退却!」
上級の冒険者チームだ。判断も早い。
メインメンバーを中心にしんがりが陣形を取り、スタッフたちが撤収を始めた。
ドラゴンが粘度の高い炎を噴く。
竜輝が氷魔法で盾を作り出したが、一度の防御で全て溶け去った。
もう一度、ドラゴンが息を吸う。
次の
誰もがあきらめかけた時、海流が前に進んだ。
「なに
手のひらを向け、ぐいっとひねる。
炎のあふれかけたドラゴンの首は90度ひねられ、横を向いた。
間髪を入れず、玲菜が踏み切る。
「ちぇやぁぁぁぁぁ!!」
銀色の光を発する勇者の剣が瞬時に二度、打ち下ろされた。
残心する玲菜を海流が慌てて引き寄せる。
動きの止まっていたドラゴンの首が3つに分かれ、床に落ちた。
切り口と
ドローンはその一部始終を配信した。
“ドラゴン倒した?!”
“一撃で?! れいぽむすげぇ!”
“世界初のドラゴンスレイヤーれいぽむ!” 5,000円
世界トップのチームがサマービル第3ダンジョン(アメリカ・マサチューセッツ州)18階でドラゴンを目撃したのは今年初め。
しかし銃火器で武装したトップチームですらドラゴンには勝てず、退散していた。
チャンネル登録者数800万人超えの侍ismで配信されたこともあり、世界初の竜殺し配信は世界的なニュースになる。
マジックキャスターしんかい、ドラゴンスレイヤーれいぽむの名は瞬く間にトレンドに上がり、翌日、しんかいチャンネルの登録者数は驚くほど簡単に100万人を突破した。
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