第16話「しんかいチャンネルの復活」

 玲菜れいなの相談後、二人の仲はすこしだけ深まったように思われた。

 学校でも仲良く話し、RAINレインでのやりとりも、毎日何度も往復している。

 そんなある日の放課後、帰宅しようと教室を出た二人を、二年生のにゃんぴこと獅子原ししはら 虹愛にあが待ち構えていた。


「しんかいくん、れいぽむちゃん、復活ですよ!」


「なにが?」


「そら『しんかいチャンネル』に決まってるやないですかぁ!」


「え? そんな連絡……」


 にゃんぴに言われてスマホを確認すると、管理用のメールアドレスに、ゆずチューブからのお知らせが届いていた。

 海流かいるは思わず自分のチャンネルをアプリで開く。


――ちゃんと表示されている。


 続いて配信者ツールを開く。


――昨日までの『機能凍結中』の赤ラインが消えている。


「……うおお! やった!」


「よかったじゃん、海流!」


「ほんま、よかったですねぇ」


 廊下で三人が並んでよろこび合っていると、とおりすがった同級生たちも祝福してくれた。

 何人かは「チャンネル登録しとくわ」「配信楽しみにしてる」などと声をかけてくれる。

 その場でにゃんぴは、公式スレッダーの『メインチャンネル復活しました!』という投稿を自慢げに見せた。


「復活発見したと同時に、公式も更新しときましたよ!」


 普通に「おー、ありがと」と返した海流は、投稿の下の数字が目まぐるしく変わっていることに気づく。

 ふぁぼリツの数が、万を超えてもなおどんどん増えていた。

 思わず目を見開いてにゃんぴの顔と投稿を見比べる。


「んぅふ。お気づきになられたみたいですねぇ」


「なん……だ、これ」


「またまたバズっとるんですよぉ! 今まさに! なう!」


「え? わ! すご!」


 玲菜もやっとその数字に気づき、声を上げる。

 もしやと思い、海流が『しんかいチャンネル』を確認すると、凍結前には1万と少しだった登録者数は、すでに3万の大台に乗っていた。


「すげぇな、これオレどうしたらいいんだ?」


 普段はだいたい達観したような態度の海流が、スマホを何度もリロードしながら、にゃんぴに尋ねる。

 聞かれたにゃんぴは制服の胸をど~んと突き出し、腰に手を当てると、にやりと笑った。


「そんなん決まってます! 配信ですよ!」


「そっか……そうだよな」


「うん、海流、水曜日だけど配信しよ!」


 にわかに盛り上がりを見せる二人に向かって、にゃんぴはさらに「んぅふっふ」と不敵に笑う。

 とりあえず打ち合わせを行うことで合意し、三人は玲菜の事務所へ、会議室を借りに向かった。


 ◇ ◇ ◇


「ちょっと今、緊急で動画をとってるんですけど」


 いつものマスクの『しんかい』こと海流が、会議室の席に座っている。

 隣の席の玲菜が、そのあまりにもデファクトスタンダードなセリフに「ぶっ」と小さく噴き出した。

 不意を突かれた海流がびくっと反応し、体を傾ける。

 玲菜が右手を顔の前に立てて「ごめん」と謝るのを見て、海流は姿勢を元に戻した。


「今日メインチャンネルの方の凍結が解けたんで、先週の分ってわけじゃないけど18時からダンジョン配信やります」


「やたー!」


 すでにダンジョン用の衣装を着ている玲菜が横で歓声を上げ、拍手をする。

 そんな二人の前のテーブルに、突然大きな段ボールが二つ、「どん、どん」と置かれた。


「なにこれ?」


「開けていいですよぉ」


 不思議がる海流と玲菜に、小さなカッターを手渡し、にゃんぴが開封を促す。

 カッターでガムテープを切り、中身を出すと、また入っていた箱には、ドローンの写真が描かれていた。


「え? これって!」


「はい! ダンジョン用ドローン最大手、株式会社DDI JAPANさまより、まだ発売前のダンジョン探索用ドローン『DDI ダンジョンPro MAX SuperFlyコンボ』を2台! ご提供いただきました!」


 いわゆる『開封動画』『プロモーション』だった。

 流れるように、にゃんぴは商品を紹介した。

 ゆずチューブプレミアム準拠8K120FPS動画撮影に加え、自動モザイク、自動追尾、自動攻撃回避、同期撮影など、今まで海流が魔法で行っていたことがほとんど実装されている。


「――加えて、通信装置もついてますんで、にゃんぴがダンジョン外から情報提供もできるようになります」


「これ、マジで使っていいのか!」


「すごっ!」


「はい。今日から配信はこの最新高級ドローンでやっていきます! まだ発売前ですが、予約サイトのリンクは概要欄に貼っておきますので、気になった方は見に行ってくださいね」


「うおお! 楽しみ!」


「それじゃ、ダンジョン配信でお会いしましょう。またね!」


 その日の配信から、地下2階へ向かうことは決まっていた。

 前回の事件で、地下1階とは比べ物にならない数のモンスターがいることはわかっている。

 マッピングやドローン制御などの雑事に魔力が取られなくなれば、海流としても安心だ。

 専用の小型ヘッドセットを装備して、海流と玲菜はダンジョンへ向かい、にゃんぴは今撮ったばかりの動画を編集して即時アップした。

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