第23話「ダンジョンハック」
渋谷2号ダンジョンのマップは完ぺきだった。
侍ismは
海流に言わせれば『低レベル』のものではあったが、魔法という新たな人類の武器は、それほどに世界のパワーバランスを変えていた。
銃火器の使用を基本的に認められていないWDO JAPANは、今まで攻撃力の面で世界に後れを取っていたのだ。
それが『しんかい』という魔法の最先端である人材を抱えたことで、今は世界トップクラスのチームを多数抱えている。
その中でも、もともと世界ランキング一桁だった侍ismは、現在世界2位までランクを上げている。
そして彼らは、世界最初のダンジョンクリアに、今最も近いチームと言われていた。
「ほにゃあっ!」
和服のような前合わせの衣装に小柄な体を包み、両腕に盾とかぎ爪の一体化した武器を装備した
ぐるんとトンボを切り、着地した虹愛の胸が大きく揺れ、その正面で大型のトロールは崩れ落ちた。
「おっけー、それで最後ね。周囲に敵なーし」
「ええですねこの武器! にゃんぴ、めっちゃしっくりきますよ」
「まぁ前世でレオノラが使ってた武器と衣装だからな」
「いいよねー、魔王軍の衣装は布面積が多くて」
「いや人間軍のデザインはオレの責任じゃねぇからな」
「わかってるわよ、ただかわいいなぁって思っただけ」
『あの、しんかいさんたち、もう17階ですから、もうちょっと緊張感持っていただけると嬉しいんですが』
ヘッドセットに侍ismのサポートメンバーから通信が入る。
アタッカーが一人増え、しかもそれが獣王レオノラということで安定感が増したチームに、普段の新宿1号ダンジョン地下2階以上の余裕を感じていた海流は、咳払いをして気を引き締めた。
「……うん。それで、18階への経路がわからない状態なら、配信してもいいんですよね」
『はい。通信途絶までの配信も行っていたので、救援ミッションであることも隠さず配信していただいて結構です』
「しんかいさん、にゃんぴは抜かりなくスレッダーに予告出してありますよ」
「よし、じゃあさっさと18階に降りて、配信始めようか」
「うー、緊張してきたー」
「にゃんぴはワクワクしてきましたよぉ」
気を引き締めたはずなのだが、やはりいつも通りの雰囲気は変わらない。
侍ism提供のマップに従い18階へのワープポートを抜けた海流たちは、今までのフロアとは空気感の違う、ギリシア建築のような立柱の並ぶ広大な空間に度肝を抜かれることとなった。
とりあえず、ドローンを飛ばし、海流の照明魔法を発動させる。
呆けたように柱の向こうを見ていた
「……大丈夫か?」
「あ、うん。……なんかすごいね」
「見覚えがある。ここはたぶん……
ミズガルズオルムは、エリュシオン世界で人間にも魔王にも
巨人族に神としてあがめられ、月が一度満ち欠けするごとに、巨人の部族から選ばれた生贄が一人捧げられていた。
生贄は力の限り戦い、そして最後は毒に侵されて動けなくなったところを丸のみにされる。
もし、侍ismのメンバーがミズガルズオルムと対峙していたのだとしたら、人間程度のサイズの生き物は、すでに消化されているだろうと海流は思った。
「毒性に対する絶対防御は張っておく。レイナ……じゃなかった、れいぽむもにゃんぴも毒は気にしなくてもいい。ただ、奴はでかいぞ」
「わかった。……任せて、斬って見せる」
「今はにゃんぴも居ますよ。三人集まれば何にだって勝てると思いますよぉ」
「……頼もしいな」
虹愛の前世、獣王レオノラは、いつでも理性的で、それでいて士気を上げてくれた。
そして玲菜の前世、勇者レイナ・アルトリウスは、自分を――人間の思いをいつも信じて疑わなかった。
その二人が今は同じチームの仲間として傍らに立っていてくれる。
海流はマスクの下で笑い、肩の力を抜いた。
「よっしゃ行くか!」
ドローンを自分たちの正面に移動させる。
いつもの「しんかいチャンネル」の配信が始まり、左上には【LIVE】の赤い文字が浮かび上がった。
「どもども、こんちわっす。しんかいです。今日は緊急配信でここ、侍ismさんのホーム、渋谷2号ダンジョンに来てるんですけど――」
どこまでも軽快に、いつもの海流が話し出す。
右に玲菜、左に虹愛。
三人そろった初めてのチーム『GYU-TAN!』の配信は、いきなりダンジョン最奥の救援ミッションということになった。
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