第28話「流れる季節の真ん中で」(完)

【LIVE】


 赤い文字が画面左上に点滅していた。

 画面中央には、ビキニのような煽情的せんじょうてきな鎧のれいぽむ、乱れた和服のような胸のサイズを強調する衣装のにゃんぴ、そして金属製のマスクをつけたしんかい。

 新進気鋭、現世界ランク2位のダンジョン配信チーム『GYU-TAN!』の姿が映し出される。

 ドローンがぐるりと回り込み、背後から撮影すると、その視線の先には醜悪な小鬼の集団があった。


「はいゴブリン居たぁ!」


 三人はダダダっと走り出す。

 画面右のチャット欄も、にわかに活気づいた。


“やっちまえしんかい!”

“れいぽむいけぇぇぇ!”

“にゃんぴ! やっちゃって!”

“うわゴブリンきめぇ”

“まぁたゴブリンかぁ。もう低層階はスキップしろよ”


「ゴブリン退治は基本だろ! それにまだワープポート見つかってないし!」


 チャットの言うとおり、しんかいたち……海流かいる玲菜れいな虹愛にあのレベルから考えれば、こんな低層は楽勝がすぎる。

 それでも、この世界への転生に失敗したモンスターたちを正しく人間に転生させるため、海流は基本的に『殲滅』をモットーにしていた。


 世界で初めてダンジョンクリアを成し遂げた海流が手に入れた『鍵』は新たなダンジョンを産んだ。

 鍵穴の22個ついたワープポートが皇居の東御苑に現れたのである。

 周囲に存在が確認されているダンジョンの数は、東京都区内だけで残り22。

 海流たちがクリアした渋谷2号ダンジョンを除けば21か所だ。

 必然的に、これらすべてのダンジョンをクリアすれば、『東京中央ダンジョン』が解放されるであろうことは、想像にかたくなかった。

 GYU-TAN!や侍ismなどのトップチームを中心に、ダンジョン配信界隈は、各地域の中央ダンジョン開放がトレンドになっている。

 かくいう海流たちも、渋谷2号ダンジョンの後、新宿1号および2号ダンジョン、新橋1号ダンジョンをクリアし、合計4つの鍵を手に入れていた。


「ちぇやぁぁぁ!!」

「ほにゃあっ!!」


 海流の魔法で強化された玲菜の剣と虹愛のカギ爪が、最後のゴブリンを切り裂く。

 血しぶきを避け、二人が肩を並べてハイタッチをすると、先ほどまであれほど文句が多かったチャット欄は、現金なもので大いに盛り上がった。


“れいぽむ最強! かわいい!” 1,000円

“にゃんぴの方がかわいいだろ!” 2,000円

“しんかいの殲滅極悪魔法マダー?”

“にゃんぴの方がおっ※い大きいだろ! いいかげんにしろ!” 3,000円

“れいぽむだって手のひらに収まりそうな形のいいおっ※いだろ!” 4,000円

“お前ら不毛な争いするなよ。俺は両方好きだぜ” 5,000円

“そうだぞ、れいぽむのしりが一番だろ”

“自分はしんかいくんのうなじが好きであります!” 10,000円

“うわぁ……”

“wwwww”

“赤スパいきなりガチすぎで草”


 ところどころゆずチューブの不適切チャット監視機能が働いて「※」になってはいたが、玲菜と虹愛は顔を赤くしてうつむく。

 海流は咳払いをすると、ドローンに向かって指を立てた。


「あんまさぁ、チャット欄に不適切コメント増えるとBANされるらしいから勘弁して」


“すまねぇしんかい”

“れいぽむ、にゃんぴ、ごめんね” 500円

“しんかいチャンネルBANされたら困る。お前らもあやまれ”

“ごめん”

“にゃんぴ、ごめん”

“ごめんな、れいぽむ(イケボ)”


「大丈夫! よしカイル! 先行くよ!」


「そうですねぇ。行きましょう行きましょう」


 こうして、世界はまた前世と同じく、魔王と勇者を中心に話は進むことになった。

 ダンジョン攻略という非日常が、海流や玲菜、虹愛の日常となっていく。

 ただ、エリュシオン世界とは違うことがあった。

 それは魔王と勇者が同じ目的、同じ思想の元、協力しあっていること。

 人々は争わず、ただ未踏のダンジョンへ思いをはせ、あるいは応援し、あるいは自ら立ち向かっていく。

 幸せな日常。

 そして、魔王と勇者は、お互いの気持ちに素直になることができそうだった。


――了

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魔王と勇者が贈る現代ダンジョン配信記〜転生魔王配信者がグラドルJK勇者とコラボしたら万バズしたので楽しく冒険します〜 寝る犬 @neru-inu

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