第11話「アカウントBAN」
伝説の『しんかい無双』配信の翌日、日曜日。
しんかいチャンネルには、ゆずチューブ運営より、アカウントBAN(一時利用停止)の処分が下された。
コミュニティーガイドライン、暴力的表現に対する違反。
後半の視聴数が特に多い部分で、モンスターの死体にモザイクがかけられていないことが問題になったようだ。
当然収益化も無効になり、
「しかたないじゃん、あの状況だとさ」
「しかたないじゃ済まないんだよ、オレには」
「とにかく問題になったとこモザイク処理して、解除申請しよ」
「苦手なんだよな、PCで動画編集すんの」
「ゆずチューバーのセリフじゃないよそれ」
だが、今まで海流はリアルタイムでの魔法によるモザイク処理に頼っていたので、サムネの作成くらいしかPCでの作業をやったことがない。
編集はとても時間がかかったし、玲菜は応援程度にしか役に立たない。
それと、一度アカウントBANされたチャンネルは、しばらく監視対象になるとのうわさがある。
今まで見逃されていたような軽微な違反でも、すぐBANされ、最悪の場合永久的な利用停止にされることもあるのだ。
とても玲菜のように楽観的になることはできなかったが、とにかくできることをやるしかなかった。
「しんかいさんと
頭を抱えつつの作業中、マネージャーからそう伝えられた。
自宅でも来客などめったにないのに、ここは玲菜の事務所だ。
とりあえず海流は金属のマスクだけをかぶり、客を迎えた。
「昨日はめっちゃおせわになりました、にゃんぴこと
ショートカットを無理にツインテにしたような、子供のような髪型の女子高生が関西弁で頭を下げ、菓子折りを手渡す。
昨日はWDOの事情聴取のためにほとんど話をすることもできなかった、にゃんぴだった。
「いや、えっと、無事でなによりだ」
「そうだよ、別にお礼なんかいいのに」
と言いつつ、玲菜はすでに菓子折りの包み紙をバリバリと破いている。
地元の定番土産『
「しんかいさんアカウントBANされたんよね……にゃんぴのせいでごめんなさい」
「いや、まぁモンスターがアンデッドだったこともあって、一時凍結で済んだからさ、気にすんなよ」
「そうはいかんですよ! ゆずチューバーにとって広告停止、収益無効、
「そりゃそうなんだけど……」
会話しながら、面倒になった海流はマスクを外し、動画編集ソフトと格闘している。
しばらくそれをのぞき込んでいた虹愛は、おずおずと手を挙げた。
「あのぉ」
「ん? なに?」
「よかったらそれ、やりましょか?」
爆発寸前だった海流は、一休み程度のつもりで虹愛と席を変わる。
葵の月のパッケージを開けて一口食べたところで、PCの画面にものすごい勢いでウインドウが開き、閉じ、動画が編集されているのを見た。
「はい、あとはエンコードを待つだけですよ」
「……すげぇな」
「前のチャンネルでも編集はにゃんぴの仕事やったんです。得意なんですよ」
「前のって……
「はい。にゃんぴもあのクズも冒険者資格を無期限停止されたんで、前の、です。もう戻る気はないですけどね」
「はぁ、そりゃ大変だな」
「それでですね、ご相談なんやけど」
虹愛は言いにくそうにもじもじと体をくねらせる。
発育のいい胸がぶるんぶるんと揺れ、海流はなんとなく天井を見上げた。
「もしよかったら、『しんかい公式まとめチャンネル』作りません?」
「公式まとめ?」
「そう。今は週一のライブ配信だけやないですか。素材はあるのにもったいないです」
「でもオレ動画編集苦手だし」
「そこでにゃんぴですよ! 冒険者資格無期限停止でダンジョンに入れんようになったし、動画編集は超得意ですし! よければ公式スレッダーでの宣伝もやりますよ!」
「いいじゃない、お願いしようよ」
コーヒーを取りに行っていた玲菜が、三人分のコップを並べる。
海流が少し悩んでいると、ピロンとエンコード終了の音が鳴った。
編集内容はばっちり。仕事も早い。
お願いはしたいところだったが、仕事として依頼するとなるとお金が発生することになる。
チャンネルも止められている海流には支払いのあてはなかった。
「まとめチャンネルが収益化するまで無給でええです! 収益化後の取り分はにゃんぴ7:しんかい3でどうでしょ? 動画もショートも毎日出しますし、スレッダーでの宣伝もバシバシしますよ!」
犬太チャンネルの実績も見せられ、何の不利益もない海流はその場で玲菜の事務所も加えた三者間での契約を結んだ。
ゆずチューブへの凍結解除のお願いも提出し、そしてまた月曜日がやってきた。
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