第10話「しんかい無双」
正面のゾンビが2体、ぐしゃっとつぶれた。
そのまま手を前に差し出す。
手のひらから放たれた炎がさらに数体のグールを炎で包み、駆け抜けざまに海流は燃え盛るモンスターを蹴り倒した。
炎を飛び越え、白い光に包まれた
「ちぇいやぁぁぁぁぁ!!」
気合とともに剣は三倍ほどの太さ・長さの光を発し、天井を切り裂きながら真っすぐに振り下ろされた。
玲菜の正面に居たスケルトンやゾンビが数体、真っ二つに割れ落ちる。
着地と同時にもう一歩踏み込み、剣を横に振ると、そこでもさらに2体のグールの上半身が床に落ち、のたうった。
“やっちまえしんかい!”
“れいぽむ最強!”
“しんかい! 次の曲がり角を左!”
もうすでに数十のアンデッドを屠った二人は、
指示通り角を曲がったところで、海流のモンスター検知レーダーにはまた数十の赤い光点が表示された。
「近い!」
「うん!」
“この道の突き当りにいる!”
“にゃんぴまだ生きてるぞ!”
“しんかい、たのむ、救ってくれ!”
普段はふざけていることの多いチャット欄も、今は一丸となっている。
急激な魔力の使用にふらつきながらも、海流は玲菜の先を走った。
照明用の光球を前方に飛ばす。
まるでコミケの行列のように通路を埋め尽くすアンデッドが明るく照らし出された。
「クッソ! さっきより多いじゃんか!」
「文句言わない! もう少し!」
“いた! にゃんぴ!”
“一番奥!”
チャットで知らされ、視線を奥へ向ける。
そこでは押し寄せるアンデッドをなんとか『さすまた』で押し返そうとする同じ年齢くらいの女性配信者の姿があった。
「行くよ! カイル!」
言うが早いか、玲菜は剣を振り、突き進もうとする。
しかし、そもそも物理的に通路がいっぱいになっているため、敵を倒してもその死体が通行を妨げ、なかなか先へ進むことができなかった。
海流の魔力で圧殺した部分をメインに前進するが、それはまるで牛の歩みのように遅い。
その間にも、救出の対象であるにゃんぴは、アンデッドに押しつぶされそうになっていた。
“あぁ! にゃんぴの武器折れた!”
“ヤバい!”
“しんかい! たのむ!”
もう進めない。
海流の魔力も底をつき始める。
剣をふるう玲菜の腕も、疲労で持ち上げるのも精一杯なありさまだった。
“あぁぁぁ”
“にゃんぴ!”
「ダメぇぇぇ! カイル! ……お願い!」
絶望の悲鳴がダンジョンに響く。
押し返され始めた玲菜の姿が、前世の記憶にフラッシュバックした。
「レイナ! にゃんぴって人! 伏せろぉぉ!」
両腕を前に突き出し、海流は叫ぶ。
皮膚は黒く変色し、爬虫類のような硬いうろこが浮かび上がった。
前世の姿。魔王カイル・ヴァレリアスの身体の一部。
マスクの下の海流の瞳は
「我、カイル・ヴァレリアス、汝ら
口の中でごにょごにょと、配信には乗らないくらいの声量で呪文を詠唱する。
ダンジョン内を明るく照らしていた光球が、フッと消えた。
一瞬、暗闇が
「
声とともに、暗闇を光が引き裂く。
飽和した光がダンジョンを満たし、次の瞬間、突き当りの壁から海流の腕に向かって稲妻が落ちた。
空気を切り裂く轟音、再びの暗闇。
そして光球があたりを照らした。
「クッソ……きちぃ……」
絞り出すようにそれだけを口にすると、海流は膝をつく。
彼の正面から突き当りの壁まで、間にあったモノは、すべて消し炭となって崩れ落ちる。
7~80体ぶんのアンデッドの炭の中から、まず立ち上がったのは玲菜だった。
玲菜の視線は海流へ、そしてゆっくりと反対側の壁へ向けられる。
突き当りの壁のそばから、もう一人、先ほどの配信者が立ち上がった。
“れいぽむ! にゃんぴ!” 500円
“……うぉぉぉぉ!? なんだ今の!?”
“やったぁぁぁ! みんな生きてるぅぅぅ!” 10,000円
“しんかいすげぇぇぇ!!” 2,000円
盛り上がるチャット欄。
海流に駆け寄る玲菜とにゃんぴ。
肩を貸されて立ち上がった海流は、二人に向けてぼそぼそと何かつぶやいた。
「え? マジでこの空気感でそれやるの?」
「あ、いや、助けてくれたんやし、やれと言われればやりますけど」
天井付近から撮影していたドローンがゆっくりと降り、三人を正面からとらえる。
もう立っているのもやっとの海流が、ちょっとせき込みながら口を開いた。
「きょ……ごほっ、今日も最後までご視聴ありがとうございました」
「今日のダンジョン配信がちょっとでも面白かったと思ったら、チャンネル登録、高評価、よろしくお願いします」
「よろしくおねがいしまーす」
玲菜とにゃんぴが後に続く。
こうして伝説の『しんかい無双』配信は幕を閉じた。
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