第13話「公式まとめ、万バズ、レオノラ」

 数日後。

 新規に作られた海流かいるのサブチャンネル『しんかい公式まとめ』の1本目の動画は、謝罪動画となった。


「――というわけで、現在しんかいチャンネルの当該配信動画を修正の上、ゆずチューブさんとは復帰へ向けて調整中です」


「ご心配をおかけして、大変申し訳ありませんでした」


 海流と玲菜れいなが頭を下げる。

 頭を下げたままの時間が10秒近く続いた末に、二人は顔を上げた。


「そしてこのサブチャンネル『しんかい公式まとめ』ですが、新たにスタッフに加わった『にゃんぴ』が、メインチャンネルの動画を編集して毎日更新してくれることになりました」


 にゃんぴが登場して「よろしくおねがいしまーす」とほほ笑む。

 海流を真ん中に、左に玲菜、右に虹愛にあが立ち、「今後はこちらのチャンネルもよろしくおねがいします」とまた頭を下げる。

 動画が終了すると、玲菜が剣を振ったり海流が魔法を使ったりするシーンのダイジェストと、フリーのBGMが流れた。


「どうです?」


「どうって……真面目?」


「サムネも『謝罪します』って字ばっかり大きいし、これほんとに大丈夫?」


「なに言うてるんですか! 謝罪動画は結構再生数稼げるんですよ! 謝罪動画の場合、変わったことやるのもNGです! あとは最初に何本かまとめ作ったやつを順次投稿すればOKです。ええですね?」


「うん、にゃんぴに任せてるから、好きにやってくれ」


「なんか投げやりですねぇ」


「そんなことないって、ほんとにオレこういうのわかんないからさ」


「だね、あたしも芸能界は結構長いけど、こういうマーケティングとかの方はちょっと」


「じゃあ任しといてください。このにゃんぴ、1週間以内に万バズさせてみせます」


 海流も玲菜も「ビッグマウスだなぁ」くらいにしか思っていなかったこの言葉は、しかしすぐ現実のものとなった。

 SNSアプリ『スレッダー』での宣伝で、今は見ることのできないメインチャンネルの『伝説のしんかい無双』まとめ動画が拡散されると、あっという間にチャンネル登録者数は1万人を超える。

 公式スレッダーのフォロワーもうなぎ上りで増え、ふぁぼリツは数万を超えた。

 ショート動画の玲菜のパンチラなども大バズし、500万再生を超えてもまだ止まる気配がない。

 わずか10分のしんかい無双動画は1週間もたたずに10万再生され、あっさりと収益化基準の累計4千時間を超えた。


「……にゃんぴすげぇな」


「結構きわどい衣装で戦う美少女モデルに、ほかの配信者には真似のできないマジックキャスター。ええ素材そろってますからね。ちゃんとマーケティングさえしとったら簡単ですよ」


「ほんとありがたいわ。海流、感謝しなさいよね」


 なぜか得意げな玲菜が海流の背中をパシーっとたたく。

 虹愛は「とんでもないです」とぶんぶん首を振り、それにあわせて揺れた大きな胸は、シャツの一番上のボタンをぷちっと飛ばした。

 はだけたシャツをあわてて押さえる。

 見ようと思っていたわけではないが、どうしても海流の目はそこに吸い寄せられてしまい、視線の先に気づいた玲菜は、すぐ間に割って入った。


「ちょっと! にゃんぴ先輩のこといやらしい目で見ないでくれる?!」


「いやらしい目で見てたわけじゃない。……いや、にゃんぴ、もう一回見せてくれ」


「はい? いやそれはちょっと……」


「バ……バカじゃないの?! あんた自分が何言ってるかわかってる?!」


「いや、レイナ、お前にも見えるだろ。左の鎖骨の下あたりだ」


 海流の言葉に、ハッとして玲菜が振り返る。

 不思議そうに見上げる虹愛に「先輩ごめん」とシャツを広げると、鎖骨とブラの間に獅子をかたどった紋章が明滅しているのが見えた。


「にゃんぴ……おまえレオノラだったのか」


「え? なんでその名前……にゃんぴそれ言いました?」


「いや、獣王レオノラ、久しぶりだな。オレだ。魔王ヴァレリアスだ……って記憶残ってるか?」


 獣王レオノラ。

 かつてエリュシオンと呼ばれた世界で、魔王の右腕として辣腕を振るった、獣人の女王。

 魔王と勇者が刺し違える1年前に、勇者アルトリウスによって倒された魔王軍の大将軍である。

 しかし彼女はう~んと悩んだ末に、また首を振った。


「レオノラの名前とかは記憶に残ってますけど、それ以外はあまり覚えてへんのです」


「そうか。まぁそれでもいい。また会えてオレはうれしいよ」


 少し寂しそうに、海流は笑う。

 虹愛の紋章を見た玲菜は、レオノラの記憶がよみがえり、ふらついた。

 王国軍と獣王軍の全面対決。

 その中心で、勇者の剣をふるい、レオノラの心臓を貫いた記憶を。

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