第06話「初コラボ配信」

 画面に表示されている『配信開始までもう少しお待ちください』の文字がカウントダウンに変わり、0が表示された後、いつものダンジョン、いつもの『しんかい』が表示された。

 画面左上には【LIVE】の赤文字。

 右側には待ち構えていた数百人のリスナーのチャット枠が表示されている。

 ちなみにこの待機人数は、普段の十倍以上だった。


「どもども、こんちわっす。しんかいです」


 なれた感じでしんかいこと海流かいるが話し出す。

 待ちかねたようにチャットが流れ出した。


“しんかいきた”

“サムネの件! はやく!”

“コラボ相手って誰よ!”


「えっと、サムネ見て知ってるとは思うけど、今日は『しんかいチャンネル』初コラボでーす!」


 海流がなにかした様子はないのに『てっててー』というファンファーレが鳴り、画面左右にクラッカーと紙吹雪の画像が表示される。

 魔法により目の端に表示されるチェック用画面を確認して、玲菜れいなは心の中で「へぇ、結構ちゃんと編集してる」と感心した。


「それで、今回初のコラボ相手ですが、映画『圧縮世界ライガンド』や『極東黙示録1927』にご出演され、現在はモデルとしても活躍されている女優の新居田あらいだ 玲菜れいなさんで~す」


 海流がスッと横にずれ、パチパチと小さく手をたたく。

 タイミングを合わせて玲菜が画面横からフレームに入った。


「こんにちわ、みなさん初めまして。女優の新居田 玲菜です」


“うおおおおおお! れいぽむだあああああ!!” 1,000円

“だれ?”

“あ、知ってる! 子役の子”

“解析班の情報どおり!!”

“玲菜ちゃんの公式プロフィールに『冒険者資格』って追加された直後だからな!”

“ググってきた。ふぅ……エロかった”

“玲菜ちゃんだ!” 500円

“れいぽむ! れいぽむ! 愛してる!” 10,000円

“しんかいてめぇうらやましい!”

“細っ! かわいい! 今日からファンになります”


「え?! 赤スパ?! 初めて見た!」


 投げ銭が一万円を超えると、チャット枠上部に赤枠で表示され続ける赤色スーパーチャット、通称『赤スパ』

 数年ゆずチューバーをしている海流だったが、自分のチャット欄に表示されるのを見たのは初めてのことだった。


「わーうれしい。ありがとうございます」


 にこにこと手を振る玲菜。

 布で肌自体は隠されているとはいえ、マイクロビキニのようなビキニメイルとよく見える体のラインに、チャット欄は沸き返る。

 ファンたちによって情報が回ったのだろう、チャンネル登録していないと見ることのできないプレミアム配信であるため、しんかいチャンネルの登録者数は、数百人単位で一気に増加した。

 スパチャによる投げ銭も、今までにないほど順調に増えている。

 一通りコラボに至った経緯や今後のダンジョン活動などについて(もちろん事実ではなく、事務所から提示されたシナリオどおりに)話した後、ついにダンジョン配信は始まった。


「んじゃ今日は玲菜さんが初めてのダンジョンってことでね、軽くその辺を……ゴブリン居たぁぁ!」


「え?」


 ゴブリンを発見した海流が走り出す。

 慌てて後ろを追いかける玲菜は、竹刀を取り出した。

 すかさず海流の呪文がほとばしる。

 竹刀は白金しろがねの輝きを放ち、勇者の剣へと姿を変えた。


“これこれ~!”

“しんかいの配信はこれじゃなきゃな!”

“え? すご! CG?!”

“れいぽむがんばれ~” 100円

“なにこれ映画?!”

“しんかいの配信見慣れてないやつは黙って見てろ! これが魔法(CG)だ!”


 いつもより初見さんが多いため、チャットも盛り上がる。

 ドローンは下から回り込むように玲菜を撮影し、その臨場感のある映像とスカートから覗く健康的な生足は、さらにチャット欄を盛り上げた。

 ゴブリンは飛び上がり、勇者の剣(竹刀)を上段に構える玲菜へと襲い掛かる。


「ちぇぇぇぇぇいっ!」


 刹那、右斜め前に踏み込んでかわし、気合一閃の面抜き胴。

 静かに残心する玲菜越しに、ドローンは真っ二つになるゴブリンを捉えた。


――どちゃ


 湿った音を立てて、モザイク処理されたゴブリンが崩れ落ちる。

 ひゅんと勇者の剣(竹刀)を振って血をぬぐい、玲菜は笑みを浮かべた。


“れいぽむつよ!”

“だろ?! 剣道三段だぞ!”

“あれ? ここってれいぽむチャンネル?”

“れいぽむチャンネル登録しました!”


 その後も華麗な剣技を魅せた玲菜にチャット欄は湧き続け、盛況のままに初コラボは終了。

 翌日、ニュースサイトにも取り上げられた「新居田 玲菜」と「しんかいチャンネル」は久しぶりにSNSアプリ『スレッダー』のトレンドに乗った。

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