第29話 夜1

 夜ってなんとなく怖いですよね・・・・・


 希望、夢、喜びが満ちる明るい世界も、太陽が沈み闇に包まれる時、不安、怯え、恐怖が空間を満たす。


 夜や闇を古の昔から人が畏れ崇めるのには、理由があるのかもしれない。目に見えないものが潜む空間が闇そのものであり、闇の時間的定義が夜と呼ばれている。


 人は夜の闇に包まれた時に、なぜ不安を感じ恐怖を意識するのだろうか?


 明子は25歳の一般職の地方公務員である。平均的な私大を標準的な成績で卒業し、予てから希望していた福祉関係の公務に携わっている。


 職場は西新宿。何万人もの職員が勤務する大きなビルの中にある。


 福祉関係の仕事と言っても、直接処遇の職員ではなく、福祉施設を管理監督・指導する事務職である。福祉施設での勤務を希望したが、本庁に配置されたのが残念でならない。


 本庁勤務の職員は、残業は当たり前にある。むしろ定時で帰れることの方が少ない。有給休暇もあるのだが、仕事が忙しく休暇を取る暇がないのが当然のこととなっている。


 特に議会開催時期などは、職員のほとんどが残業し、終電後にタクシーで帰宅する者も多い。女性職員は22時には退庁するのがルールではあるが、このルールも守られてはいないようだ。


 明子が配置された係は、部内の計画・予算の取りまとめや議会対応も行う部内でも最も多忙な係であった。


 係長ほか職員6人体制で事務を進めているが、今月は議会開催の時期でもあり、係全員が深夜まで残業を余儀なくされていた。


 明子の実家は北海道にある。両親はもちろんまだ健在で、2人とも現役教師として働いている。大学入学時に上京し、その後現在まで杉並区阿佐ヶ谷の単身女性専用のワンルームマンションに住んでいる。


 阿佐ヶ谷はどこに出るにも比較的便利であり、都内では比較的に家賃も安く、女性専用のマンションも多い。


 マンションに入居して既に7年以上になるが、同じマンションの住民とは挨拶を交わす程度で特に友人はいない。


 阿佐ヶ谷から職場がある新宿までは中央線快速で10分足らず。朝はゆっくりできるし、残業で遅くなっても早めに帰宅できる。


 マンションは阿佐ヶ谷の駅から7分程度の距離で、夜遅くの帰宅であっても明るい商店街を通るため怖さは無い。3階建てで各階5部屋ずつの15部屋の小さなマンションである。階段を上って2階の一番奥の205号室が明子の部屋である。


 15部屋全て入居しており、現在空き部屋はない。今では明子が1番古い住人であり、他の部屋は毎年3月から4月に入居者が入れ替わることが多い。


 自分以外の14人の女性の顔は一応覚えている。全員が10代後半から20代と思われるが年齢を確認したわけではない。学生さんがほとんだが、夜の仕事をされてる女性もいるようだ。


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