第7話 感1
感が鋭いという言い方がある。感が働くとか第六感などとも言う。霊感がある、予感が当たる、これも同系の言葉だと思う。
『不思議な力がある』子供の頃からそんな言われ方をしてきた。ふと頭に浮かんだ情景を口に出すと、その通りの事象が後に発生したことが多かった。
小学校の帰り道、近所に一人で暮らすおばあちゃんが、古い家の前にそっと佇んでいた。顔はおぼろげながら知ってはいるが、今まで話などしたこともないし、朝夕の挨拶さえ交わしたことがない。
おばあちゃんの古い家の前を通らないと帰宅できないので、ちょっと気味悪かったが、通り抜けるしかなかった。
おばあちゃんの家の前には、幅3m弱の道がある。おばあちゃんが立っている所の向かい側を、目一杯距離を取りながら自宅に急いだ。
『さようなら・・・・・』
頭に直接響く、夜風が木の葉を揺らすような寂しげで不安な声が、幽かに聞こえたような気がした。
2日後に、おばあちゃんの家を尋ねた民生委員さんが、布団の中で冷たくなっているおばあちゃんを発見した。
父が九州に出張する朝、行かせたくなくて車の鍵を隠した。父親はタクシーを呼んだが、なぜか空車が無く、予定の飛行機に間に合わなかったことがあった。
その日、荒天の乱気流に操縦不能に陥り、機長以下全乗客の命が奪われた航空機墜落事故が発生した、父が乗るはずの便であった。
何度も何度も同じようなことが続き、あまりにも予感が当たるので、両親にさえ気味悪がられるようになった。
中学時代になった頃には、もう誰にも予感については話さないことにした。周りの人たちから気味が悪いと思われたり、怖がられるのが嫌だったからだ。
様々なことを予感できたからといって、特に自分にとって得することはあまりなかったような気がする。
でも、もちろん多少は、得することもあったのだけど・・・・・
試験問題なんかは、先にわかっちゃうから、その気になればどんな科目でも、常に100点を取るのは容易だった。ただし体育や音楽など実技は、わかっていてもできないものはあったけど。
中学、高校と常にトップの成績で過ごし、大学はもちろん東大に入学できたので、勉強では苦労はなかった。就職も大企業に難なく就職し、他人からは天才・秀才などと呼ばれ、恥ずかしい思いをしていた。
でも今までの人生で、得することよりも、嫌な思いをすることの方が、圧倒的に多かっような気がする。
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