第15話 鏡3
都心のマンションなんて、家賃が20万円どころじゃないけど、会社の方で特別住居手当としてちゃんと出してくれてるみたい。
その夢香がね、同期の飲み会のときに、なんかちょっとおかしな話をしてたの。夜中に帰って鏡を見たら、自分が映ってたって言うの。
「何言ってるのよ、当たり前じゃない。自分以外に何かが映ったら、それこそ怖いわよ」
みんなで大笑いしちゃったの。鏡を見たら、自分が映るのなんか当然だよね。夢香ったら何言ってるんだろ。
みんなが大笑いしちゃったから、それ以上はあまり詳しく話しはできなかったけど、でも夢香は真面目な顔して言ってたの・・・・・
毎日遅い帰宅が続いていた。今夜も職場を出たのは、既に1時を回っていた。
我社の最も大口の得意先との接待に、社長自ら顔を出して、銀座のクラブから得意先のお偉方を送り出したのが既に24時過ぎ。
随行していた統括秘書が、それからタクシーを呼んで社長を自宅まで送り出し、やっと仕事が終了した。
夢香は外部の接待時には、統括秘書に随行する機会がほとんどであったが、今夜のように特に重要な賓客接待の場合は、随行せずに統括秘書が帰社するまで、秘書室の自席で待機するが一般的であった。
社長を送り出すまでの間にも、統括秘書からの連絡が随時に入る。帰社した統括秘書を自宅まで送り出すタクシーの手配も、夢香の役割である。
統括秘書を送り出し、自席を片付けて帰宅が1時30分。朝は6時に起きるので、睡眠時間を確保するため、シャワーで済ませることにした。
最近、なんか鏡を見るのが怖い・・・・・
鏡に映るのはもちろん自分でしかないのだが、鏡の中の自分が、まるでいつもの自分ではないような、そんな気がする。
幽霊やお化けなんか、子どもの頃から全く信じていなかった。だからホラー映画なんかを見ても、怖いと思ったことなど一度もなかったのに。
鏡を見るのはイヤだったが、シャワーの前に化粧を落とすため見ざるを得なかった。
いつもと同じ自分の顔が映る。ちょっとだけ疲れちゃってるみたいな表情が映る。本当はあんまり好きじゃない左目の下の泣きボクロが映る。
女性の泣きボクロは、男性にモテるからいいねなどと、職場でもからかわれるから恥ずかしくて嫌なんです。
ちゃんと鏡の中にも、左目の下に泣きボクロが映っている。えっ、左目の下・・・・・
鏡って、逆に映るはずだよね。
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