第16話 鏡4
私の左目の下に、泣きボクロがあるんだから、鏡には逆で右目の下に映るはずなのに。
なんでなの・・・・・?
どうしてなの・・・・・?
鏡に映る自分の顔が、どこか少しずつ変容している。鏡の中から湿った生臭い風がふっと顔を撫ぜ、鏡の中に映った自分の左の口角が、少し上がって笑ったように見えた・・・・・
最近、社内で評判になってるの。秘書室の秘書担当のあまり好ましくない噂が、次から次へと飛び交っているようだ。
考えられないんだけど、その噂の秘書担当って、同期の夢香のことみたいなの。
もちろん才色兼備の夢香だから、男性職員の人気の的になるのは、当たり前のことなのかもしれないけど。
庶務の男性職員の中でも、夢香の熱烈なファンは多く、他の部署でもやはり同様らしい。何とか食事に誘いたいとか、一緒に飲みに行きたいなどと、友人の私に仲介して欲しいと声がかかるほどだ。
でもね、夢香って外見とは裏腹に、男性は苦手だし、とっても真面目で初心で控えめな女の子だったのに。
夢香、どうしちゃったんだろう。
なんか感じが変わっちゃったのかな。
当たり前だけど、外見はもちろん夢香のままだけど、最近は服装も派手になり、なんか雰囲気がまるで別人みたい。
それに夢香とデートしたらしい男性職員は、次々に体調を崩して休職したり、心の病で退職したりしているという噂なの。
今日も旅費の関係で秘書室に行った時に、帰り際に作業中の夢香の背中越しに声をかけたの。
「夢香、今日、お昼ごはん行こうよ」
「ごめん、今日は無理。営業の佐藤くんと約束してるの」
「そうか残念、じゃあ夜はどう?仕事が入ってなかったら、たまには付き合ってよ」
「ごめんね、今日の夜は仕事は偶然ないのだけど、総務の中村さんに誘われているの」
「わかった、今度空いたときに連絡ちょうだいね。それに夢香、たまにはのんびりしないと体壊れちゃうよ」
仕事中だから、なるべく小さな声でお話したつもりだけど、夢香の奥の机に座っていた統括秘書に聞こえちゃったみたい。
統括秘書から一声かかった。
「お話中申し訳ないが、おい夢香くん、今夜は23時から急な接待が入ったから空けておいてくれよ」
社内女性職員からの人気も高い、ゴルフ焼けした爽やかであった統括秘書の顔色が妙に青白く、眼つきも虚ろであったのがなぜか印象的であった。
「うん、ありがとう。今度空いたら声かけるから・・・・・」
作業のきりがついたのか、振り向いて答えた夢香の右目の下の泣きボクロが妙に妖しく映り、私に微笑んだ左口角がくいっと上がった・・・・・
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