第18話 時2
間違いなく誰が見ても小林だった。
紛れもなく小林そのものだった。
今まで賑やかに話し込んでいたみんなが、一瞬沈黙した。
「お、おう、小林か?」
決して疑問形ではない。なぜなら小林そのものだったから、間違いようもない。体型も、髪型も、肌の感じも、目鼻や口まで小林そのものだった。
中学生の時の小林が、そのままの姿で入口に立っていた。白のポロシャツに紺色ズボン。服装こそ学生服ではなかったが、外見は中学生の時のままの小林であった。
まるでタイムマシンに乗って、中学からたった今やって来たような不思議な感じに、思わずみんな沈黙したのだった。
中学生の時はオジサンのように見えていたが、今、小林の姿を見ると30代後半のまだ青年のようだった。
「おう、小林。久しぶりだな。立ってないで、とりあえず座れよ」
幹事が気を取り直して、空いているオレの隣の席をすすめた。悪いとは思ったが、隣に座った小林をマジマジと見つめてしまった。
肌の感じが、我々とは明らかに違う。若く見えるなんて域を超えている。まるで自分達の子供世代の肌なのだ。
つい本音が出てしまった。
「小林、お前、若いなあぁ。いや若過ぎるだろう」
もしかしたら整形手術でもしているのかもしれない。しかしどう見てもそんなふうには見えない。
みんなも小林の姿に気を奪われていたが、幹事の一声に我に返った。
「さあ、さあ全員揃ったんだ。順番に近況報告をしてもらおうか。じゃあ、まず遅れて来た小林からやってもらおう」
また、みんなの視線が小林に集まる。はたして小林は、今何をしているのか。今まで何をしてきたのか。
「こんばんわ。みなさん久しぶりです。皆さんに会えて嬉しいです」
参加者の全員のひと通りの近況報告が、終わるまで30分弱続いた。他人の近況報告などは、まったく興味がなかった。小林以外は・・・・・
隣の席だからこそ、小林の頭の天辺から胡座をかいている足元まで、隅々まで遠慮無く見ることができる。
何故かおかしい。違和感がある。間違いなく変なのだ。理由などない。
8年前までは、仕事もせずに母親の介護をしていたと話していた。中学のあの頃に、既に母親は病に倒れ寝たきり状態だったようだ。
父親は大物県議会議員だったという。しかし既に家庭を持っており、小林が産まれてすぐに、母親のもとから去って行ったという。
小林の母親は、地元の大地主のひとり娘であり、両親からの莫大な資産を相続していたため、経済的には困ったことがなかったようだ。
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