第22話 月2

 「なんかいいアイデアないかなあ。みんななんか一つくらいはアイデア出してくれよ。都市伝説とかなんか無いのか?」


 「だって社長、今までじんわり怖いヤツって言ってたじゃないですか。都市伝説なんてじんわりどころじゃないですよ」


 「わかったよ。じゃあもう、じんわりじゃなくても良いから、なんか怖い話知らないかな?」


 「怖い話っていうと、三浦、お前すげぇ得意だよな。社長、こいつ霊感強いらしいんですよ」


 開発グループのリーダーが、開発のサブの三浦に話を振った。三浦は仕事は真面目で良くできるが、いつも無口な男だった。


 企画会議でも振られない限り、自ら発言することなどない。社長としては当然ではあるが、社内の噂は一応チェックしていた。


 三浦は身長も180以上、体格も良く見るからに体育会系のスポーツマンである。高校、大学と柔道で常に全国大会に顔を出すほどの猛者だった。


 いかにもいかつい体つきに似合う強面の顔は、不良たちが避けて通るほどだ。その三浦に霊感があるなどとは、社内の誰もが信じなかった。清掃員のオバちゃんからあの話を聞くまでは・・・・・


 会社がリースしている建物は、かなり古い年季が入った5階建てのビルである。5階建てビルにはエレベーターがない。


 階段で昇り降りする為、最上階は借り手がなく賃料が安かったため、資金が乏しい我社でもワンフロア借りることができたようだ。


 勤務時間は8時30分から17時30分であるが、忙しい時は0時を過ぎることなどざらにある。もちろん女性は22時には退社させてはいるが・・・・・


 「内緒だけどね、出るんだよ・・・・・」声を潜めて囁いた。


 フロアの南端にある給湯室で、お茶を入れていた女性職員が、清掃のオバちゃんからコッソリ聞きたのだ。


 60代であろうと思われるが、やたら元気なオバちゃんである。エレベーター無しの5階建てのビルを、階段で何回も昇り降りする体力がいる仕事である。


 このビルは隔日で清掃が行われている。2人の清掃員が配置され、1階〜3階担当と4階〜5階担当をローテーションが対応している。


 現在勤務している2人は、まだ若い30㈹前半に見える女性と、60代と思われるオバちゃんである。


 オバちゃんはこのビルが新設された頃から、清掃の仕事を務めている。このビルの事ならオーナーや管理会社の担当よりも詳しいとのことだ。


 社員の誰にでも気軽に声掛けをしてくれる気さくなオバちゃんである。


 我社がこのビルに入って5年程度経つ。その前は空きフロアで、1年ほど借り手がなかったのは知っていた。

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