第21話 月1

 暗い夜空に浮かぶ月。月は様々な物語を造るが、そのほとんどは妖しきものが多い。月の光を浴びると、人外のものに変化する話などは数え切れない程ある。


 何かが起こりそうな朧月、冷たい蒼い月、時には異様に大きく炎色をした月も見かける。人の目に見えぬものさえ、その姿を映す月は妖しきものである・・・・・


 今、社内では月にまつわる不思議な話がブームになっている。社内と言っても全社員30人程度の小さなゲームのプログラミングをしている会社であるが・・・・・


 ブームのきっかけは、新しいゲーム開発の企画会議であった。


 社員の平均年齢が20代の若者ばかりが働く職場は、社内で唯一の30代の社長が大学在籍時に起業した意欲溢れる活気ある職場である。社内は企画、開発、販売と3人のリーダーが3つのグループをまとめている。


 企画会議には、社長、3人のリーダー、そして各リーダーを支えるサブが3人の10人て進められるのが通常となっている。


 北から南にやや長方形のビルのワンフロアを3つに区切り、北壁側に販売、南壁側に開発、そして真ん中に社長室、それを取り巻く企画が配置されている。


 社長室といっても1.5mほどの高さのパーテーションで仕切っただけの簡易なものである。社長室には、職員と同型の社長用デスク、来客用の6人がけの応接セット、そしてその先に12人ほどで利用できる会議テーブルとイスが並べられている。


 企画会議をはじめ社内のすべての会議はこの会議テーブルで行われている。社長がまず会議の口火を切った。


 「なんか面白いゲームを作れないかな」


 「社長、面白いって、例えばどんなイメージなんですか?」


 「簡単に言えば、もちろん売れなくちゃ困るけど。大人が楽しめる分野のゲームなんかどうかな? ゲームって子供達だけのものじゃないよね」


 「まあ、今流行りのゲームは、みんな子供から大人まで楽しめるゲームが多いですけどね。大人だけが楽しむゲームってことですか?」


 「いや、大人だけって限定するわけじゃないけど、大人が夢中になれるアダルトなヤツがいいと思うんだけど」


 「社長、アダルトっていうと、ちょっとエッチ系のヤツですか?」


 「いや、エッチ系のものを言ってるんじゃないよ。大人が感じる、なんていうかな不可思議な世界をゲームに取り込めないかなって意味なんだけどね」


 「不可思議な世界ですか? なんかイメージが難しいな」


 「ソンビとか、もろホラーじゃなくて、ゲームしているとじんわり怖くなるみたいな」


 「社長のイメージって、いっつも曖昧だから商品化するの、難しいですよ。それにじんわり怖いって、全然意味わからないっすよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る