第10話 瞬2
電車が降車駅の新宿に滑り込み、怒涛のように乗客の波がホームに雪崩出る。ホーム側のドアの角に後ろ向き乗車していたため、流れに合わせてホームに一気に押し出された。
エスカレーターに向かう降車列に並ぶオレの背中に、聞き覚えがある声がかかった。
「電車の中では、何度も申し訳ありませんでした」
振り向くと頬を桜色に染めた、若く美しい女性の姿があった。
一瞬で心を奪われた・・・・・
一目惚れであった・・・・・
幸運なことに、3日後に再び満員電車で出会い、その後、数回出会うことができた。
初めて出会い、1月後に何とかきっかけを掴み、付き合い始めてもうはや2年になる。
今日は、23回目の彼女の誕生日である。昨年の彼女の誕生日に決めていた。絶対に、来年の誕生日には・・・・・
金曜日の仕事帰り、上司や同僚に、この日だけは定時に退社させてくれるように、1月以上前から頼んでおいた。
人生の特別な日のために・・・・・
正直に話したら、職場のみんなが応援すると言ってくれて、本当に嬉しかった。
待ち合わせのレストラン。一番奥の席を予約しておいた。もちろん、彼女を美しく照らす素敵なキャンドルも飾り立てて。
気がつくともう30歳になっていた。あっという間だった。もちろん、今までに女性と付き合ったことは何回かはある。
でもね、今までの女性は1年程は続くが、それ以上は続かなかった。
仕事が忙しい。休みの日曜以外は、ほとんど早くて22時、遅い時は1時、2時に帰宅することもザラであった。
日曜は疲れ果てて爆睡。がんばってもせいぜい月に1回程度のデートが精一杯であった。
2人で会う時間を作れない。付き合いが長続きしない一番の理由だったかもしれない。
でも、今回は違う。疲れていても、眠くても、なんとか彼女と会える日曜は、なんとしても会う。いや会いたいのだ。
本気で結婚したいと思った相手は、今度の彼女が初めてである。
そしてまったくの偶然ではあるが、2人の誕生日が同じ日というのも、運命的な出会いのような気がしていた。
自分の30歳の誕生日に、そして彼女の23回目の誕生日の今夜、心を込めて、人生を賭けて、プロポーズすることを決めていた。
彼女に贈るための祈りを込めた指輪もバックの中にある。昨夜寝ないで書いた、心の想いを綴った手紙も添えて彼女に届ける、とっても大事な夜であった。
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