第26話 月6

 短期イベントなので、幹部の深夜までの残業など当たり前の会社であった。


 その日は満月の夜であった、深夜になると給湯室から足音が聞こえてきた。誰かいるのかなと確認に行ったところ誰もいなかった。


 いつもは給湯室側から施錠されている屋上に出る扉が、なぜか開いていた。深夜に屋上に出るものなどいない。足音を確認に来た職員が、恐る恐る扉の隙間から覗きこんだ。


 扉の向こうは屋上に続く階段がある。その階段から足音が聞こえるのだ。ヒールで歩くような硬い足音が・・・・・


 「コツン、コツン・・・」


 幹部には女性はいない。誰かがビル内に紛れ込んだのか。足音は屋上に向かっているようだ。不安感はあったが、相手が女性なら何とか対応できる。


 「おい、誰かいるのか?」


 足音は止まったものの、返事はない。


 「ガチャッ、ギイィー」


 重く錆びた扉が開く音が聞こえた。自殺願望の女性が屋上から飛び降りるつもりなら、止めなくてはならない。


 室内にはまだ3人の仲間が残っているが、声をかける時間も惜しみ、扉を開けて屋上に続く階段を走った。階段を駆け上がると、屋上に出る扉が僅かではあるが開いていた。


 扉の隙間から月明かりが漏れている。腰を下ろし息を潜めて覗き込むと、蒼い月が夜空にぽっかりと浮かんでいた。


 隙間を少し開き、屋上の様子をうかがう。人影らしきものは見当たらない。


 バサッ  と突然上から目の前に・・・・・


 垂れ下がる長い髪、蝋のような青白い顔、逆さ釣りになったた女性が・・・・・


 突然の恐怖に声さえ出せず、意識が遠のいていった。


 「おい!おい! 大丈夫か?」


 仲間の声にソファの上で意識を取り戻した。いつまで経っても戻らないので、仲間が給湯室に様子を見に来たということだった。


 開いている屋上に続く扉を通り、階段を上ると気を失って倒れている仲間を見つけ、3人がかりで5階まで運んだという話であった。


 見た恐怖を話したものの、全く信じてもらえず、何かの見間違いだよと、みんなには笑われてしまった。


 屋上に出る扉はしっかりと施錠され、鍵は清掃のオバちゃんのみしか持っていないとのことであった。


 1ヶ月のみの短期イベントの2回目が催されたのは、2ヶ月後であった。


 幹部4人のみ変わらぬメンバーであり、あとはアルバイトを雇い対応したが、『それ』を見た者は2度と給湯室には近づかなかった。


 イベントの中間点の繁忙期は、もちろん幹部4人はほぼ徹夜作業であった。


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