第3話 扉1
扉って、いろいろあるよね。鉄の扉、木の扉、ガラスの扉、高そうな扉、ボロボロの扉・・・・・
扉マニアって訳じゃないけど、渋い銅の扉や重厚な木彫の扉が大好きだ。
それとは逆に嫌いな扉は、同じ形状で複数並んでいる扉。例えば、マンションやアパートの扉、病院や学校、公衆トイレなどの扉。
なぜ嫌いなのかというと、各扉の前に立つと目に入る扉はどれも同じ。
でもね、扉を開くと、そこはまるで違う世界が存在する。当たり前のことだけどね。
何故か、それがとっても怖い気がするんだ。もし扉を開けて、見知らぬ世界に紛れ込んでしまったらって考えると・・・・・
でも本当は扉を開けることが怖いのじゃなくて、扉を開けてその世界に入り扉を閉める。再びその扉を開いた時に、元の世界に戻れなくなるようなそんな気がして・・・・・
みんなだって、どう思う?
元の世界に戻れなくなったら怖くないかな?家族とも、仲間とも、住み慣れた世界とも、切り離されて生きる。本当に怖くない?
新宿駅から中央線の高尾行き飛び乗った。発車寸前のギリギリの駆け込みであった。3月は年度末の処理、そして4月からの新年度に向けての対応など残業しない日などない。
帰宅時間が24時を過ぎるのは当たり前、1分でも早く帰宅し、1秒でも長く睡眠時間を取りたい。このところの睡眠時間は5時間も確保できない日々が続いている。
乗車前にトイレに寄りたかったが、我慢して電車に飛び乗ったものの、睡眠不足と疲れているせいか、実はお腹の調子が良くない。
時々キリキリッと下腹にさしこむ痛みが走る。なんとか堪えてはいるが、揺れる電車の振動が不安定な腹を刺激し続けている。
電車はいつもの下車駅、立川駅に滑り込み、既に1時を回っている闇に包まれたホームに僅かな疲労客と酔客を吐き出した。
押し出そうとする腹圧に堪えながら、エスカレータの終着から右に曲がりトイレに急ぐ。通常は酔客など数人はいる深夜のトイレ。なぜか、珍しく今夜は誰も居ない。
まるで同じ扉がいくつも整然と並んでいる。各個室は扉は閉じたままではあるが、人の気配は無く、全てが空室である・・・・・と思う。
腹部に押し寄せる圧力が限界に迫っていた。選ぶ余裕などもはや無い。入り口から4番目の扉を押した。
「ガキッ」 閉まっている・・・・・
既に先客が入り、施錠されているようだ。慌てて3番目に移る。こちらも先客が。2番目も、1番手前、5番目、次、その次も。
なぜ、なぜこんな時間に、こんなに先客が。人気などまるでないのに、おかしい・・・・・
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