夢のなか
希藤俊
第1話 誰1
人はある空間で生まれ、そしてある空間で死ぬ。留まることのない時の流れのなかで。
無限に流れる時空間の中で、刻まれていく自分だけの時。
過去に置いてきた時は、ただ思い出を彩り、懐かしむだけである。
たった1秒先の起こるべきことさえ、確信できぬ時を生きる。
存在し自覚できるのは『今』だけである。
過去そして未来も、所詮幻想にすぎない。
もしかしたら唯一自覚していると思い込んでいる『今』さえ幻なのかもしれない・・・・・
街なかで、親しげに声をかけられた。にこやかに話しかけてくる。
「おう、久しぶりだな、元気そうだな」
『あれ、こいつ誰だっけ?』
顔が思い出せない、もちろん名前さえ。歳の頃は、自分と同じ位に見受けられる。
目の前で見ながら話しかけてくるのだ。人間違いではないのだろう。
騙しで引っ掛けようとしているようには、見受けられない。人が良さそうな笑顔が、そう感じさせる。
とりあえず話を合わせながら、相手の話の中から誰であるかのヒントを探る。
「おい、どうしたんだよ。ボーッとして、この間、昔の連中と飲み会やってな。久しぶりにクラス会やろうって話をしてたんだよ」
「クラス会って、いつの時のだい?」
「おい、お前ボケてんのか?中学だよ、中3の時に決まってんだろ」
屈託ない笑顔には、なんの曇りもない。
覚えがない。まったく記憶にない。必死に中3の時のクラスメートの顔を、順番に思い出すが、似た顔が見当たらないのだ。
「おーっ、中3の時のクラス会か。度忘れしちゃったけど、3年の時、何組だったっけ?」
試してみた。オレは3年C組だった。
「お前、本当に大丈夫なのか?具合でも悪いのか?まだまだボケるには早過ぎるぞ」
心配そうに覗きこむ瞳に嘘はなさそうだ。
「C組に決まってるだろ。まさか担任の先生まで忘れてないよな?」
担任は小林、優しい女性の先生だった。
「コバヤシ先生、忘れちゃいないよな。お前には特に優しかったよな」
国語が得意だったオレは、国語の小林先生には、随分と可愛がられた記憶がある。話す内容にまったく矛盾はないようだ。
「オレがクラス会の幹事やる。あとで連絡するかもしれないから、お前の電話番号教えとけよ」
断わり切れずに、名前も顔もわからない昔の同級生と電話番号の交換を行った。
「日程が決まったら連絡するから、楽しみにしといてくれ、じゃあな」
言い残して、人混みの中に消えていった。
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