第13話「好きになると可愛くなる存在」


桜沢結衣という可愛い恋人ができました。


恋人ってのは不思議な存在だ。今までなんとも思わなかったのに、急に結衣のことが可愛らしく見えてくる。



「おはよ」



西花畑の駅で、結衣と合流する。


そして二人で、学校へ向かう。


いつもと変わらない朝の日常。


でも、ちょっとだけ変化もある。



「あのさ」



学校へ向かう道中、結衣が話しかける。



「一瞬だけでいいから、手をつないで歩いてみたい」



と・・・。


可愛すぎません?


正直、世の中のカップルと呼ばれる人々が、パートナーとどの程度の関係なのかは分からない。


いわゆるバカップルとか言われたくないって気持ちはある。


でも、結衣のこのセリフを前にして、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。



「いいよ」



5月のこの地域は、まだ寒い。


現在の気温はおおよそ12℃といったところだろうか。


コートが欲しくなる気温。


でも、ふわっと柔らかい結衣の手は、とても暖かい。


手袋がいらなくなる暖かさ。



「えへへ」


「なんで笑うんだよ」


「神谷くんの手、とっても冷たい」


「そっか。心が温かいから手が冷たいんだよ」


「それ根拠ないじゃん」



ぎこちない会話だ。


つい先日まで、普通にできていた会話。


なんでこんなにもぎこちなくなってしまうのだろうか。



「そろそろ、ごめんな」



そう言い、結衣の手をゆっくりと離す。


学校近くになると、他の生徒の数も多くなる。


そんな中で、手を繋いでいるのはかなり悪目立ちするだろう。



「そだね」



結衣も理解してくれたようで、なにより。


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