第5話「すべては時が解決してくれる・・・かも?」


西花畑(にしはなばたけ)というのが、結衣が降り立つ駅名だ。


朝の7時半ちょっと前に訪れて、改札の前で待つ。


4月とはいえ、田舎の朝はまだ寒い。


コートを着てくればよかったと少し後悔するほどだ。


静けさのする駅前に、電車の音が響き渡る。


田舎というのは冷遇されがちだ。


やってくる電車は、昭和に作られたおんぼろさん。


無駄に音が大きいので、やってきたことが一発でわかった。


それからすぐに、改札に人の波が現れ、その最後尾らへんに、結衣の姿があった。


制服の上からコートにマフラー、手袋までしちゃって、温かそうな格好だ。



「おはよ」



改札から出てきた彼女に、気さくに挨拶してみる。



「あ、おはようございます」



相変わらず、テンションは低め。


でも、どこか昨日よりかは声が聞き取りやすくなった気がする。



「じゃ、行こうか」


「はい」



そして、学校までの道を歩く。


この街で生まれ育った俺には、もう見慣れた雰囲気。


でも結衣にとっては、まだ数回しか見ていない新鮮な雰囲気。


見るものすべてに、興味ありげな目の泳ぎ方をしている。


やがて学校に到着して、教室に入る。



「おはよう」



まだ始業の30分前というのに、すでに先客がいた。


中川静香(なかがわしずか)。クラスで一番生真面目な女子(成績が良いとは言っていない)だ。


黒く大きなフレームのあるメガネをかけていて、いかにも頭がよさそうな感じがするのに、中身は普通にバカ。アホでもある。


しかし、朝早くに登校して黒板や机など、教室の掃除をしてくれている。


真面目ってのは、こういうところの真面目。


成績は・・・まぁ、、、ね?



「早いな」


「そっちこそ。もう彼女つくったの?」



俺と並んでいる結衣に対して、そんなことを言う。


まぁ言いたくなる気持ちは分からんでもないが。



「違うわ」


「ほう? んで、そいつ誰なの?」


「あ、桜沢結衣です」


「結衣ちゃん。よろしくね。わたし静香だよ。お風呂は好きじゃないけど、運動は好きだから」



風呂入ってないみたいな言い方だな。


まぁ青たぬきアニメの源さんの方を意識したジョークだろうけど。



「つまり脳筋だ。バカだからいちいち受け答えしなくてもやっていけるぞ」


「それはひどくないか? 五木」


「おう、悪かったな。みんなそう思ってると思うぞ」


「わたし明日から学校来るのやめようかな」



もちろんネタである。


こんなしょうもない会話でも、楽しいと思えるから友達ってすごいと思う。



「結衣ちゃんって、この辺の人じゃないよね?」


「あ、はい。和佐から来てます」


「そうなんだ! ところで五木、和佐ってどこ?」


「知らんのかい」


「いやぁ、あとちょっとで思い出せる、腰上あたりまできてるんだけど」


「うーん、腰上なら頭までだいぶあるけど」


「和佐は・・・えっと」



地理の説明って難しいよな。


どうにか伝えようとしている結衣に対しては。



「大丈夫。こいつにモノを教えるってのはな、チンパンジーに言葉を教えるぐらい難しいことなんだよ」



と、言っておく。



「おい五木、そりゃどういうことだ」


「そういうことだ」


「ひどくない? ねぇ結衣ちゃん」


「え、あ、はい?」



クラスの奴らと打ち解けることに、自信なさげだった結衣。


とはいえまぁ、気さくな奴らは多い。


ちゃんと受け答えして、変なことを言わなければ自然と友達はできるものだ。


結衣もまた、段々とクラスの奴らと打ち解けていった。


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