第4話「約束の駅」


駅まで結衣と一緒に帰ることになった。



「あの・・・神谷くん」


「ん?」


「神谷くんは、この辺の人なの?」


「うん」


「そ、そっか。私みたいに、遠くからきてる人もいるのかな」


「どうだろ。市内からしか来ないと思うけど」



その“市内”ってのが、バカみたいにデカいんですけどね。


田舎あるあるだ。



「やっぱり、みんな知り合いなんですね」


「そうだな。ほとんど中学で見てきた顔だし」



入学式とは思えないほど打ち解けた教室の雰囲気。


それに、ひとりだけ馴染めない結衣。


戸惑いと、おいてかれたような感覚。



「馴染めそうか?」



内気な性格の彼女には、そんな質問は相応しくないと、あとから後悔。



「いや・・・」


「まぁ変な奴はいないと思う。うん、多分」


「自信なさげ・・・?」


「色んな人がいるってことで」


「でも神谷くんは、その色んな人と関わってるんですよね」


「全員と仲がいいわけではないけど」


「すごいなぁ」



と、呟いてから、なぜか赤面。



「あいや、えっと、何でもないです!」



過去一大きな声でした。


どういう意図があったのかは分からない。


でも、わからないことを悩んでも、それはわからないことであり理解することはできない。


ということで、気にしないことにした。


と、そんな話をしていると、駅に到着。


ここから結衣は、電車に1時間揺られることになる。



「んじゃ、気をつけてな」


「はい。あの、それと」


「ん?」


「ここ、毎朝通りますか?」



“ここ”というのは、この駅前のことだろう。


俺の家は、この駅の隣の駅の近くにある。


学校へ真っすぐ行くのなら、ここは通らないが・・・。



「一緒に学校行きたいのか?」



そんなことを訊くぐらいなのだから、つまりそういうことなのだろう。



「い、いや・・・あなたと学校に行きたいわけじゃないです」


「そっか」


「いや・・・違います。一緒に学校行きたいです」



どっちやねん。



「なら、ここ寄っていくよ。何時に来るの?」


「えっと、8時42分の電車で」


「それ遅刻やん」


「え、そうなんですか? 今日は9時半からでしたよね」


「それ、今日だけな?」


「じゃ、じゃあ、1本前の電車だと・・・」



そう言い、スマホを取り出す。


ここいらは田舎だ。


都会じゃないので、適当な時間に駅に行って、来た電車に乗り込むという芸当ができないのが辛いところ。


こうやって乗る電車を事前に調べないと、信じられないレベルの時間を駅で過ごすことになる。



「8時5分着」


「それならギリ間に合いそうだな」


「ギリギリなんですか?」


「まぁ・・・8時半始業で、歩いて20分ちょっとだからな」


「なら、もう1本前だと・・・7時半」


「それは早いな」


「で、ですよね」


「まぁでも、余裕をもって7時半にしようか」


「いいんですか? そんなに早く来てもらって」


「いいよ」


「そ、そうですか。ありがとうございます」


「うん。じゃ、明日ね」


「はい」



そう言い、彼女は改札を抜けていった。


さて、明日はこの駅に来なくてはならない。


忘れないようにしないと・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る