第3話「彼女の名前は結衣ちゃん」
HRが終わると、下校することになる。
「敦、帰ろうぜ」
「あーごめん、今日ばあちゃんの家」
「そっか」
敦は祖母宅に行くとのことで、下校ルートが俺とは異なる。
他の奴らと帰ってもいいが、如何せん家が近い奴がいない。
仕方ないので、一人で帰ることに。
誰を待たせているというわけでもないので、のんびりと帰り支度をしていた。
すると、帰り支度が終わる頃には、教室には数えるほどの生徒しかいなかった。
「あの・・・」
荷物を手に持ち、教室を出ようとした刹那。
例のおさげ女子に話しかけられた。
「ん?」
「あいや・・・何でもないです」
「うん」
よく分からないが、何でもないのなら何でもないのだろう。
そのまま下駄箱まで行き、靴を履き替える。
ここまで、おさげ女子はうしろを歩いている。
少し距離をあけてるわけでもなく、割と近くを歩いていたので、ちょっと居心地が悪い。
「あのさ」
歩を止めて、振り返る。
手を伸ばせば届くような距離に、おさげ女子は立ち止まる。
「は、はい」
ドキッとした表情。
もちろんびっくりの方のドキッ。
「家、どこなの?」
「か、和佐(かずさ)の方です」
和佐・・・この辺に引っ越してきたわけではないようだ。
「遠くね? 電車?」
「はい」
和佐は、この街から電車で1時間ぐらいのところにある街。
峠を超えるし、距離にしたら40kmぐらいはある。
「なんで村雨高校に入学したの?」
そんな遠くから、なぜこんなところまで来てるのだろうか。
村雨高校は、特質する点があるわけでもない。
普通の県立高校。偏差値も部活も行事も、全てにおいて並みの高校だ。
そんな高校に、わざわざ片道1時間かけてくる理由。
「いや・・・えっと」
「答えたくなければ、答えなくてもいいけど」
言いたくなさそうな雰囲気だったので、無理強いはしないようにした。
まぁ、ワケありということで。
「あ、あの・・・」
今度は彼女の方から話しかけてくる。
「なに?」
「駅まで一緒に、行っても」
「あー、いいよ」
和佐に向かう電車が発着するのは、市役所がある方の駅。
名前は確か、西花畑駅。
俺はその駅の隣駅の近くに住んでいるのだが・・・。
まぁいいや。そのことは言わずに、彼女についていくとしよう。
「きみ、名前は?」
「桜沢結衣(さくらざわゆい)です」
「そっか。俺は神谷五木ね。よろしく」
「はい」
人間関係が出来上がってるところに入り込むのは難易度が高いだろう。
でも、自然と友達はできるものだ。
しかし、それまでが地獄でもある。
誰も味方がいないという状況は、それなりにメンタルが削れる。
だから、それまでは俺が知り合い・・・いや、友達をやっておけばいい。
それに、俺経由で友達もできやすくなる。
この女の子のことは、気にかけておくことにしよう。
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