第11話「和佐の街」


電車は終点に到着した。


そこが、結衣の住んでいる和佐(かずさ)という街だ。



「はえー、発展してるな」



もちろん俺の住んでいる街に比べたら、だ。


駅チカにはマンションや雑居ビルがあり、駅前から片側一車線の道路はじにある商店街。


まぁ商店街は俺の住んでいる街にもあるが・・・。



「どうする?」



結衣からそんなセリフ。


どうすると言われてもなぁ。



「何かないの? おれ和佐のことは全然分からないけど」


「私は住んでるけど、何もないよ? 山と川ならあるけど」



それは俺の住んでる街にもあるわ。


結衣が誘ってくれたので、どっか行く場所でもあるのかと思っていたが・・・。


まぁ所詮は田舎ということですかね。



「とりあえず、私の家でも行く?」


「うん・・・うん?」



いま、私の家って言ったよな?


つまり、結衣の家ってことか?


さっき告白されて、OKした彼女の家に、これから行くのか?


・・・いや、過度な期待はしないでおこう。


というか、そういう妄想をしないようにしよう。


俺に、やましい気持ちはない。


ない・・・はず。


少し緊張しながらも、駅前から商店街に沿って歩く。


商店街とは言っても、人で賑わっているわけではない。


地方にはよくある、閑散としている商店街。


ぽつぽつと、人の往来はある。


そこを歩いて、駅から大体5分ぐらい。



「ここ」



そう言われて目線を上げると、そこには洋菓子店があった。



「本当にケーキ屋なんだな」



結衣の家はケーキ屋らしい。


何日か前に、結衣が自ら言っていた。


どうやらそれは、本当のことのようだ。


店とは裏側の、玄関っぽいところから入る。



「おじゃまします・・・」


「こっちよ」



そう言われ、案内されたのは2階にある6畳ほどの小さな部屋。


一面カーペットが敷かれ、勉強机、ベッド。


タンスの上には、ぬいぐるみが数個置かれている程度。


どこか無機質で寂しい部屋は、大体想像ができる。



「ここ、結衣の部屋?」


「うん。誰かを入れたのは、初めて」



と、照れくさそうに言う。


そんなことを言われても・・・。



「そ、そうなんだ」



その程度の返答しかできない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る