第10話「トンネルを抜けると」
峠を越える長大トンネル。走行音が響く車内で、結衣から告白された。
いや、告白でいいのか?
「付き合うって・・・?」
「一発で分かれバカ」
結衣からバカって言われました。
そんなことも言うんですね、この子。
「えぇ・・・よく聞こえなくて」
「だから、神谷くんのこと好きなの。色々わたしのことを支えてくれたりして、すごく良い人だと思う。わかってくれた?」
「う、うん」
普段褒め慣れていないから、どんな反応をしたらいいのか分からない。
というか、告白されたことなんてないから、なおさらどんな反応をしたら正解なのか。
「・・・」
「・・・」
ヤバい。俺が何か話さないと、終始無言になってしまう。
今までも終始無言だったが、今はそれに気まずい雰囲気が漂う。
居心地が最悪だ。
今までなんとも思わず結衣と接してきた。
普通の友達として接してきた。
だけどなんでだろう。告白された瞬間から、結衣のことが急に可愛く見えてくる。
恐ろしいほどに、魅力的な女の子に見えてくる。
「結衣・・・」
「はい」
ヤバい。緊張する。
こんな経験は初めてだ。
初めてだから、緊張する。
手が震える。心臓がバクバクする。
電車がトンネルを抜けると、減速してすぐに駅に到着する。
停車すると、うるさい走行音もなくなる。
静かになった車内で、深呼吸して言う。
「いいよ」
家に帰って、じっくり考えようかとも思った。
でも、そんなのは時間の無駄。
多分俺は、告白されたその瞬間から結衣のことを好きになってしまったんだと思う。
「・・・いいの? こんな私で」
「うん」
「ありがと」
そう言われて、彼女の方から手を握られた。
両手で包み込まれる、俺の片手。
平静な感じがする結衣。
でも彼女の手は、ほんのちょっとだけ震えているように感じた。
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