第9話「雑音の中から響いたきみの声」


結衣と別れるいつもの改札前につく。


電車の発車まであと数分といったところだ。


いつもなら、「じゃあね」の一言で別れる。


が、今日は違った。



「神谷くん、このあと用事ある?」


「いや、ないけど」


「なら、和佐のほう来ない?」



和佐(かずさ)というのは、結衣が住んでいる街の名前。



「行ってもいいけど、急にどうしたん?」


「えっと・・・ほら、バイト探してるんでしょ? こっちはいっぱいあるよ」


「え、でも遠くない?」


「かもしれないけど、一応見てみない?」


「うーん。まぁいいけど」



電車の発車まであと数分。


これを逃したら30分は電車が来ないので、迷ってる暇はなかった。


普段から電車に乗らないので、ICカードなど持っていない。


なので、券売機から和佐までの切符を購入。


片道で400円だったので、往復で800円ということになる。


それなりに高いんだなぁ・・・。


そう思いながら、改札機に切符を食わせる。


吐き出した切符を手に取ると、後ろからICカードをタッチする音。


結衣はもちろん定期券だ。


それから電車に乗り、座席に腰掛ける。



「誰かと一緒に帰るなんて、なんか新鮮」


「駅まで一緒だろ」


「駅からのはなし!」


「ソウデスカ」



電車に乗るなんて、中学校の修学旅行以来だ。


ガクンと動き出し、加速していく。


モーターの音が響き、会話がちょっとだけ不自由になる。


発車から10分ぐらい無言が続くと、電車はトンネルに入る。


峠を越える長いトンネルで、うるさい走行音が車内に響く。



「神谷くん」



雑音の中から、結衣の声が聞こえた。



「なに?」



返答すると。



「私と、付き合ってくれない?」



雑音で言葉が聞き取りづらい。


でも、その言葉だけは、はっきりと脳裏に響いた。


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