第21話「案外話題は何でもいい」


近くにある自販機で、飲み物を買ってきた。


結衣の好みなんて分からないから、無難なお茶を。



「ほら」


「ありがと。お茶って地味ね」


「悪かったな」



ちょっとは微妙な雰囲気も和らいだだろうか。



「・・・」


「・・・」



でも、話題がないからすぐに元通り。


どこか気まずく、どこか微妙な雰囲気。


川の流れと、近くにいる人たちの喋り声。


それだけが、二人の空間に漂う。



「今日はありがと」



それは、無言だった二人の空間に、突如として放たれた言葉だった。


結衣の声。ボソッと一言だけ口にする。



「お、おう」


「神谷くんって、趣味とかあるの?」


「趣味?」


「うん、こういうこと、訊いてないと思って」


「趣味か・・・旅行とか?」


「ほんと? 旅行は私も好きよ」


「そうなのか」


「興味なさげね」


「そんなことないけど・・・どっか行ったりするの?」


「基本は家族旅行だけどね。私ひとりじゃ、いろいろと不安あるし」


「行けるだろ。不安ってなんだ?」


「迷いそう」


「迷うのか」


「うん。迷うと思う。そして、二度と人里に帰ってこれなくなるんだ」


「どんな山奥で観光してるんだ!?」



結衣が俺の趣味である旅行を好きと言ってくれた。


それは、俺に話を合わせてなのか、それとも本当に好きなのか。


それは分からない。


でも、二人に共通の話題ができたことは明らかだ。


ほんのちょっとだけだけど、結衣のことを知れた気がする。


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