第8話 全部学園長のせい

手紙かー。


めちゃくちゃ嬉しい。


なぜなら、修行に行く理由の一つがヴァルとの再会だったからだ。


赤色のシーリングワックスで封をされた便箋を丁寧に開ける。


「なんだ....これ...」


便箋の中身は、ただの黒い紙だった。


なぜヴァルがこれを送ってきたのか全く見当がつかない。


本当にただ黒いだけの紙。


ヴァルがいたずらで送ってきたのかとも考えたが、そんな幼稚なことをするような奴じゃないと思う。


紙に付いて離れない折り目を、何度も指でなぞり無くしていく。


ある程度無くなってきたので、太陽に透かして見る。


しかし、紙に何かが写ることも無く、本当にただの黒い紙であるのだと分かった。


だが、絶対に何かあると思った俺は、あらゆる手段でこの手紙に隠されたを見ようとした。


火で少し炙ってみたり、水を少しかけてみたり...


「マジで何も変わらないじゃん...」


黒色に染まった紙を机に放り投げ、もう諦めようとした。


俺は最終手段に出ることにした。


「『分解』..やるだけやってみる?...」


物への『分解』はあまりいい思い出が無い。


大体は、微量の出力の『分解』で粉々になってしまう。


一歳から二歳の時は力不足だったのか、粉々になるなんてことは数えるくらいしかなかった。


しかし、年齢を重ねると共に『分解』についての理解も深まり、体が力の出し方が分かったのか、魔力抵抗の無いものはほとんどの場合、無条件で粉々になるようになってしまった。


それでも、やってみなければ分からないことだってある。


俺は決心した。


少し...少しだけ..


『分解....』


触れた部分から少しづつ分解が始まる。


パラパラと灰のようなものが崩れ落ちた後、そこに残ったのは今度こそ、ヴァルからの手紙だった。


しかし、『分解』の出力が上手くいかなかったのだろう。抜けている箇所が多数あった。


まあいい。全部消えなくて良かった。


俺は、『分解』の効果の残りでこれ以上読めなくなるのを恐れ、優しく手紙を持ち上げ読み始めた。


「ハンスへ

元気にしていますか?僕は.....

でも.....です。ところで、魔法...はどう..?

時間...くださいね!僕の.........よかったら........ます。」


「これは、読んだと言っていいのだろうか..」


その手紙には内容が無かった。肝心な部分がすべて抜け落ちていた。


魔法の修行の調子でも聞いてきたんじゃないかな。多分。


しかし、ハンスには疑問があった。


「なんで『分解』で文字の部分以外を消せたんだ?違うインクで上から重ね塗りされていたなら辻褄があう。でも、そんなことする必要あるか?それに俺の『分解』について知ってるのは俺以外にしないしな...」


ハンスは熟考した。


しかし、状況を説明できる材料が少なすぎだ。


「よく分らん!!やめだ、やめ。終わり!」


読み終えた(?)手紙を机の上に投げ置き、ベットに寝転がる。


最近は色々なところで異変が起きているというのを知っていたハンスは、魔法学園の入学延期も、ヴァルの意味の分からない手紙もそれらと同じだとこじつけ、少し昼寝をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


月日が流れたある日、またしても魔法学園から手紙が届いた。


「入学延期!?それも俺が十二歳になる年まで!?」


こうなってくるともうほんとにクソ。


入学延期プラス六年。


訳が分からないよね。


母が聞いた話によると、学園長がやらかしたらしく、それが原因で魔法学園自体が六年間の封鎖となったそうだ。


学園長!何してんの?まじ。


こうなってくると、魔法学園入学後に差が付くのは目に見えている。


ここで怠けた奴は絶対ろくなことがない。


そうと決まれば修行だ。


そう、修行だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「スライム!スライム!!スライム!!!」


狂人のように目を見開き、口角を思い切り上げ、見えたスライムを片っ端から潰していく。


「どいつもこいつも.....なんで修行ばっかしなくちゃいけねえんだよ!!刺激をくれ!刺激を!!」


ストレスを思い切り魔力に込めてスライムを潰す。


だが、スライムではもう少年のストレスを抑えきることはできなくなっていた。


「上級魔法とやらをぶっ放しても誰も文句ないよな!インフェルノブレイク!!!」


その魔法は大気を震わせ、茂みを焼き、木をなぎ倒し、爆ぜた。


空には大きなキノコ雲以外見えない。


「さすがにやらかしたかな...レインーー」


天候魔法で雨でも降らせておけば勝手に消火されるだろう、とハンスは思う。


「今日はここらへんでお開きかなー。スライム全然居ないし...帰ったらお肌の手入れしなくちゃ。」


ルンルンで帰っていく少年を目にした魔物たちは、ほとんど全員ちびっていた。


その後、当然彼には一匹も魔物が寄り付かなくなり、長い間彼のスライム不足は続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


そんなハンスにも最近の楽しみというのができていた。


「リグルト先生が来たわよーー!」


「すぐ行くー!」


階段を一段飛ばしで駆け下りていく。


玄関には美人な先生がいた。


そう、修行に飽きてきたハンスは地下にある本の解読のため勉強をすることにしたのだ。



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