第4話 森の君
俺と同い年くらいの男の子が剣を使い魔物と戦っている。
彼のボロボロになった服と、体の土汚れを見る限り戦闘が長引いているように見えた。
普通ならば助けに入るべきなのかもしれないが、俺と同じく森へ修行に来ている可能性もある。ここは一度、様子を見るとしよう。
男の子の強さはウルフガウルとほぼ同格だと思う。彼の唯一の欠点と言えば、体格差くらいだろう。ウルフガウルの大きさは彼の倍以上の大きさである。
彼にウルフガウルの攻撃が一度でも当たってしまえば、彼は死んでしまうかもしれない。
しかしそんなことはお構いなしのようだ。
彼は体格差を逆に利用し、ウルフガウルの攻撃を素早くかわし、懐に潜り込む。
彼の剣先がウルフガウルの腹に当たったため、俺はそのまま切り裂くのかと思った。
だが、彼は浅く突き刺すだけだった。
俺はミスったのかと思っていたが全くそんなことはなかった。
傷が浅かったウルフガウルは、今なら逃げられると確信したのかバックステップをする。その瞬間、彼がさらに腹の奥へ剣を突き刺すことによって、男の子が剣を振らずともウルフガウル自ら切り裂かれに行ってしまう形となった。
一度切り裂き始めた剣は、水面を切るようにさらさらと流れるようにウルフガウルの腹を切り裂いていった。
「すげーなおい。すげーな。すごい。すごすぎ。」
俺は思わず語彙力が溶けてしまう。
小声で言ったはずが聞かれていたようで、
「そこにいるの...誰...!」
彼が振り向きながら言ってきた。
その瞬間俺は茂みに隠れる。
彼がこちらに近づきながらしゃべりかけてくるが、戦闘が終わったばかりだからか、完全に殺気が漏れ出ていて背筋がぞわっとする。
このまま出ていかなかったら、腹を小突かれて死んでしまうなんて事が起きてしまうと思った俺は両手を上げて出て行ってみることにした。
「こんにちはー...」
俺からは茂みでよく見えなかったが、彼は剣をしっかりと握っていたため出ていかなかったらほんとに殺されてたかもしれない。
「なんだー。人だったのか。少しホッとしたよ。」
彼の表情は本当にほっとしているようにも見えたが、少し残念そうにも見えた。
「こんなところで何してるの?ここら辺は、さっきみたいな少し大きめの魔物が出てくるから、気を付けたほうがいいよ。」
これが、強者の振る舞いと言ったところだろう。『少し大きめ』の魔物だそうだ。あれが??少しどころじゃないでしょ。
「自己紹介がまだだったよね。僕はメディエル・ヴァルエイド。ここには......修行をしに来てたんだ。君は..?」
「俺は、ラインズ・ハンス。俺も同じく修行に来てたんだ。」
「奇遇だね!君も修行かー。最近魔物の量が少し減ったような気がしてたんだけど、もしかして君もウルフガウルを狩りに来てるの?」
「いや、俺はウルフガウルみたいな強そうな魔物とは戦ったことはないな。恥ずかしいけど、スライムばっかり狩ってるよ。」
「君、まだ一回もウルフガウルと戦ったことないんだよね?」
「そうだけど...あと、ハンスでいいよ。」
「じゃあ僕のことは、ヴァルって呼んで。それじゃあハンス、今から一戦してみよっか!」
「急に!?本当に言ってる?倒せる自信ないし、さっきヴァルが狩った奴くらいしか周りに居なかったよ?」
「まあまあそう言わずに。ちょうど一匹後ろに居るから試すだけ。ね?」
「後ろ...?」
俺はゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこには、茂みの中からこちらを狙っている鋭い眼光が見えた。
そいつはこちらの様子を伺っているらしい。
少しでも隙を見せたら、一瞬でガブリといかれてしまう気がする。
「僕の剣使う?さすがに丸腰だときついと思うけど...」
「一応受けとっておくよ。」
手渡された瞬間、剣がズシリと地面に落ちてしまった。剣ってこんなに重いのか?と俺は思った。
剣としてデメリットじゃないのか?これ。
俺が不思議そうな顔をしていると、
「あー...修行用の剣だから、一般的に色んな人が使ってるみたいに軽く作られてないんだよね。ダメそう?」
正直なところ、この剣を持って戦ったら結構高い確率でボコされそう。でも、武器があるのと無いのじゃ戦い方に大きな差が出てくるため、持つしかないだろう。
ましてや、まだ初級魔法程度しか使えない俺は、剣をブンブン振り回すだけで威嚇としての効果を得られるとするならば喜んでそうする。
「いや、いける。やってみるよ。これも修行の一環だな。」
重い剣を肩に担げば、そんなに力を入れずに持っていられるのでそれでどうにかした。
「ほら!かかって来なよ狼さん!こっちは準備万全だぞ!」
俺は威勢よく言った。
そして、それを聞いたウルフガウルは、茂みの中から出てくる。
しかし、茂みから出てきたウルフガウルはさっきの二倍以上の大きさをした王大狼、キングウルフガウルだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます