第13話 媚を売るチャンス
結局俺は、メディエル派に入ることができた。メディエル派の1クラスだ。
クラスはそれぞれの派で1~5まである。1~5までの振り分けはランダムではなく、ここでもまた”才能”が関係してくる。
”才能”の高い者から順に1~5へ振り分けられる。
俺が1クラスに振り分けられたということは、俺の才能はメディエル派では高い方にあるということだろう。
そして、意外とすんなりとメディエル派に入れたのには理由がある。
それは、ヴィーレ派の人気が高すぎて、他の四派が定員割れしていたからだ。
ヴィーレ派の人気が高いというのは、本当だったらしい。
何でも、新入生1000人中、600人超がヴィーレ派を希望したのだとか。
恐るべし英雄ヴィーレの人気......
そうして、メディエル派に入った俺は、とにかく面倒ごとを起こさないようにすることを第一に、学園生活を送り始めた。
しかし、面倒ごとは起こさないようにしている時ほど起こるものだ。
「それじゃあ、二人一組になってちょっとした試合形式で魔法の練習をするように。始め!」
これでもかと半袖の服からはみ出させている鍛え上げられた筋肉。
浮き出た全身の血管。いかにも脳筋のような見た目の先生が言った。
名前はシーグル。主に戦闘魔法を教えている。
俺はあれほど熱血な先生が他に学園内でいないことに少し安心している。
俺はああいうタイプが苦手だ。面倒ごとを引き起こすトリガーになりかねないからね。
そして今さっき、彼はトリガーを引いた。
そう。彼は『二人一組になって』と言ったんだ。
最悪の面倒が起こってしまった。俺には友達がいない。面倒ごとを起こさないようにと思って、人とあまり関りを持たなかったのが仇になってしまった。
そして、今日は普段の1クラスだけの授業ではなく、1と2クラスの合同授業だ。
1クラスの奴は見たことがあるし、本当に少しなら喋ったことがあるが、2クラスになると話は別だ。
昼飯を食べる時に1クラスの友達に会いに来る特定の人しか見たことがない。
そして、言わずもがな俺は他のクラスへと足を運ぶことが無い。
今日こそは完全におしまいである。
どうしようかとハンスが考えていると、先生が話しかけてきた。
「二人一組と言ったんだぞ。聞こえなかったか?」
聞こえていますとも。そりゃもうはっきりと。でも、周り見てよ...
授業前からほとんど組終わってたも同然でしょ。
ちゃっかり三人一組のところもあるし。要するに、俺は邪魔だって思われてんの。わかる?
そんなことを考えながらハンスが答える。
「聞こえましたよ...組む人が居なくてですね...」
「なんだ友達がいないのか!はっはっは!じゃあ先生がお前と組んでやろう!」
すごいはっきり言ってくるじゃんこの人。さすがに今のは心に来る。
ハンスが少し嫌そうに答えようとした。
「じゃあよろしくお願い......」
「先生!僕が組んじゃだめですか?」
いきなり後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
俺はその声に反応して後ろを振り向いた。
「ハンス!元気にしてた?」
首の辺りまで短く切ってある漆黒のような黒色の髪。夜明け前の空のような色をした赤い瞳。鍛えているようだが、どこか華奢に見える脚が制服のスカートから覗いている。
とても綺麗だと俺は思った。
ん?なんで俺の名前知ってるんだ?
「もちろんいいぞ!さあ、組めたことだし練習始め!」
疑問をかき消すように先生が言った。
そして、それに反応するように少女が言う。
「じゃあ僕から先手を取らせてもらうね!ファイエイル!」
彼女がそう言うと、彼女から炎の刃が飛んできた。スピードは速く、最短距離で俺の方へと向かってくる。
「ッ!?」
不意打ちすぎて、反応に遅れたッ!防御が間に合わない!
俺はそう思ったが、予想は外れた。
彼女の放った魔法は俺に当たる寸前で消えてしまった。
「また失敗かー。どう頑張っても成功しないんだよなーこの魔法。」
そう言いながら、彼女は顔をがっくりと俯けた。
何が何だか分からなかった俺は、一旦落ち着くためにその場から動かなかった。
すると、
「あれ?ハンスは攻撃してこないの?か弱い乙女には攻撃できないってこと?もうーー//」
そう言いながら彼女は顔を隠し、体をくねくねとさせた。
その姿に少し戸惑いながら俺が口を開こうとしたら、それを遮るように彼女が言った。
「待って!何も言わないで。僕のこと忘れてるって言ったら怒るよ。そうじゃないならどうぞ。」
「........」
もちろん、聞こうとしていたのは”彼女が誰なのか”ということだったため、話始められなかった。
沈黙が数秒流れる。
そして、彼女が悲しそうに話し始めた。
「本当に忘れたの?ハンス、僕だよ?」
いや、『僕だよ?』と言われましても....
「本当に分からないんだけど......」
「僕だよ!ヴァルエイド!メディエル・ヴァルエイド!」
ヴァルエイド.......
「嘘だ.....」
「え?嘘じゃないよ?ヴァルだよ?」
「嘘だよ、嘘に決まってる。だってこんなに....」
「こんなに?」
「........」
「かわいいとか思った?ねえねえー」
意地悪な顔をして彼女が言ってきた。
「....本当にヴァルなのか?」
「そうだよ。ヴァルだよ!」
本当に彼女はヴァルらしい。全く信じられない。なぜなら、俺の記憶の中にいるヴァルは『男の子』として記憶されている。
しかし、今目の前にいる人は俺の記憶の中のヴァルとは全く違う。
まるで”輪廻転生”したかのように別人だ。
そして、甘んじてその事実を受け止めようとしている俺が放った再会後一発目の言葉は謝罪の言葉だった。
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