第12話 人付き合いは相手をよく知ってからにしよう

家に帰ってから俺は、リグルト先生と母さんに合格の報告をした。


先生たちはとても祝ってくれた。チキンにケーキとその他もろもろ、とても豪華な食事でパーティーをした。


リグルト先生曰く、「どうせ合格なんて決まってたようなものじゃないの。いつも修行してる君が魔法学園の入学試験で落ちるなんて考えられないわ。」だそうだ。その言葉に、母さんも頷いて同意した。


この時初めて知った。俺の修行は完全に筒抜けだったのだ。正直、親に隠れて修行をし始めたのは、俺が森に入って修行をしていると母さんにばれたら、確実に辞めさせられると思っていたからだ。いつから知っていたのかは分からないが、知っていたなら知っていると言って欲しかった。必死に親にばれぬよう、こそこそ森に入って行っていたのが馬鹿みたいじゃないか。


その後食事も終わり、魔法学園の見た感じのイメージとか、魔法学園について二人と雑談をしてその日のパーティーは終わった。


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朝になり、俺は朝食を取った後すぐに魔法学園へと家を出た。


俺の家から魔法学園までは、普通の人であれば大体45分から1時間で着くのだが、俺の場合は違う。修行中の筋トレで身に着けた身体強化魔法のおかげで、俺は10分くらいで着くことができる。毎日タイムアタックをしていて、最近は10分を切ることが目標だ。しかし、最近はスランプになってしまったのか、最速記録の10分12秒を記録した後から、そのタイムに近づくことはあっても更新できなくなってしまった。


今日はいつもより調子が良く、序盤から中盤にかけては順調だったが、終盤に差し掛かったところで岩を貫通して行ったため、10分15秒のタイムになってしまった。


俺は息を整えながら魔法学園の門をくぐり、昨日の受験会場だった大講堂に向かい、また同じところに座った。


今日は何をするのかをまだ学園の人から告げられていないが、クラス分けとかだろう。


そんなことを思っていたら、昨日と同じメディという女性が壇上に出て話し始めた。


「本日は皆さま方に所属していただく派を決めていきます。派の種類は五つ。グリエール派、ディーヴァイト派、コルト派、メディエル派、ヴィーレ派の五つとなっています。」


メディエル派......ヴァルって貴族だったのか?だとしたら失礼なことをしたな。ごめんヴァル。君の身分を知らないで気やすく話しかけて。一般市民のわたくしでは、釣り合うことなどありえませんね。


いやはやどうにかして、失脚したイメージを取り戻さなければ......媚でも売れないかな。


「それぞれ、貴族の名が由来ですが、その派に入ったからと言って、入った派の貴族に媚を売ることはできませんのでご了承ください。」


まるで、俺の心を読んだかのように彼女は言った。


さすがにそこまで学園の制度は甘くなかったわ。


「それでは、それぞれの派の説明をしていきます。ヴィーレ派は皆さまご存じの通り、英雄ヴィーレの名が付いた派となっております故、毎年多くの方が憧れを抱き、入派をご希望なされます。しかし、それぞれの派にはそれぞれ同じだけの定員があります。定員を超えた派には、”才能”の度合いが高い人から順に入派することになりますから、ヴィーレ派に所属するためには高い才能を持ち合わせている必要がございます。」


英雄ヴィーレ。魔軍戦争という魔王と魔王が率いた魔物たちと、人間の戦争の英雄。

彼は、貴族の出でも何でもなかったが、貴族を遥かに上回る保有魔力量を持ち、その上高い魔力操作技術を駆使することができた。


その力を使って、魔王を殺した。要するに、人間の大英雄様である。しかも、魔王を殺すだけでは飽き足らず、世界へ人助けの旅に出たのだと言う。


貴族の出ではないという所から、平民に絶大な人気を誇っているが、正直おとぎ話に近い歴史なので、俺はあまり信じていない。人助けの旅とか、どうせ誰かが話す途中に脚色したに決まっているのだ。


しかし、『所属するためには高い才能を持ち合わせている必要がございます。』だそうだ。だとしたら、俺が入るべきはここかもしれない。


俺は少しにやけながらそんなことを思った。


「それでは次に........................」


それからメディという女性の長い説明が続いた。


他の派についての説明は、簡単に説明をすると、グリエール派は風、ディーヴァイト派は土、コルト派は水、メディエル派は火の四元素の魔法が得意である生徒が集まるということだそうだ。


説明の時に貴族の成り立ちを伝えるように言われているのか、その派の特徴以外にも関係のないことを話されたため、俺は派の魔法関係のことしか覚えていない。


最終的に終わったのは大体30分くらい経ってからだったと思う。


「それでは皆様、お決まりになられた方からそこにある紙に入派を希望する派の名前と、ご自分の名前を書いて提出してください。本日はこれで以上となります。提出が終わった生徒の方は、学園を見て回っていただいても構いませんし、帰宅していただいても構いません。それでは皆様方、良い午後をお過ごしください。」


そういって彼女は大講堂を後にした。


さて、どこの名前に入派しようか......


無難にヴィーレ派でもいいが、きっと周りとの競争が激しいだろう。知らん奴に『私が一番!お前より上!』とか言われたり、逆に俺がその立場になったりと、きっと面倒くさい。


だとしたら、わんちゃんヴァルが入派しているであろうメディエル派かな。『もしかしたら旧友に会えるかもしれない』にプラスして、『火魔法を得意とする生徒が行く』という、俺にとって一石二鳥の派である。


『火魔法が得意な生徒が行く』という所に惹かれた訳ではなく、火魔法が一番戦闘系っぽいという所に惹かれている。


他の派は、風に水に土で俺にはあまり魅力的に思えない。それは、魔法がちっぽけそうとかいう理由ではなく、単純に俺の戦闘スタイルに合っていないと思うのだ。


俺は、とにかく魔法をぶっ放してボコボコにするというスタイルで修行をしてきた。

そのため、風を使って相手を切るとか、水で押し流すとか、土でゴーレムを作るとか。あまりそういったスタイルの戦闘は慣れていないのだ。


慣れていない魔法を使って友達がいない俺が笑われるのを防ぐためにも、やはりメディエル派に入るのが最善の選択だと思う。


俺はそう考え、紙に『ラインズ・ハンス メディエル派希望」と書いて提出した。

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