第二章 魔法学園入学
第11話 才能とは残酷である
受験会場になっているゴシック様式の大講堂。
ステンドグラスの装飾は、様々な色を放っていてとても綺麗に大理石の床に写っている。
大講堂の壁一面の本棚には、この世の書物がすべて集まっているかの如くびっしりと本が並べられている。
ハンスは見たことのない圧巻の光景に目を輝かせながら、ずらりと並んだ椅子に座った。
二十分くらい経った後、見渡す限り数えきれないほどの受験生が大講堂の椅子に座り終わった。
すると、大講堂の脇から長身で「如何にも私が偉い人です」と体で体現しているような、おじさんが出てきた。
短髪に整えられた白髪と黒髪の混じった髪の毛をオールバックにし、髭が少し生えた彼は、大講堂の一番前に用意された演説台の前に立ち、次のように話し始めた。
「私はこの学園の学園長だ。どうぞよろしく。」
彼は一礼し、顔を上げまた話し始める。
「君たちは、この学園の入学試験を受ける資格を得た未来ある子供たちだ。この学園に入学するということは、少なからず何かの困難が君たちの前に立ちはだかるだろう。その最初の場がここだ。君たちは自らの”才能”を恨んだことはあるかい?”才能”はこの世で最も残酷なものだ。生まれ持った”才能”はどうあがいても変えることができない。その”才能”で今日、入学の合否が決まる。メディ、魔水晶を頼む。」
メディという女性が演説台の近くに学園長の体の半分ほどの大きさの水晶を運んできた。
「ありがとう、メディ。試験は一つ。この魔水晶に触れ、君らの魔法適正を見る。何らかの魔法適正が見られた者は合格とする。しかし、魔水晶が何も反応を示さなかった時、君たちはその場で不合格とする。さあ!未来ある子供たちよ!君ら自身の手で未来を掴むと良い!」
学園長は、ざわざわとどよめく大講堂を少し楽し気に歩きながら後にした。
ざわめいた大講堂はしばらく静かになりそうになかったが、メディという女性の言葉で静まる。
「それでは皆様。試験開始でございます。前の長椅子の右奥の方から順に受けていただきます。魔法適正については以下の通り、赤は戦闘系。緑は回復支援系。青は錬成、形成系となっております。混ざった色で反応された方は、色の強い方が本命の適正ですが、色の弱い方も少しは適正があるということになります。今後の進路の参考になれば幸いです。それではどうぞ。」
メディという女性が話し終わると、奥の人から一人ずつ魔水晶に触れていく。
魔水晶の反応は、一つの色がとても色濃く出る者や、話の通り混ざって出る者、中にはやはり、魔水晶が反応しない者もいた。
当然だが、魔水晶が反応しない人がいると少なからず白い目で見られる。
実際にそういう人がいることで、会場の人々は”才能”とはやはり残酷なものだと認識されられた。
ハンスは魔水晶が反応しないことで白い目で見られるのはまだいいとして、これまでの修行が否定されかねないことに心配していた。
会場の雰囲気は、不合格者が出れば出るだけ重くなっていく。
ついにハンスの番が来た。
手は汗ばみ、今まで感じたことのない大きさの緊張感がハンスを襲った。
しかし、ハンスはこんなところで終わるわけにはいかないと強く心に思い、不安をかき消し、魔水晶に触れた。
魔水晶が反応を始める。
その時点でハンスは八割安心していた。
反応があるということは合格が確定したということだ。
あとは、魔法適正がどう出るかである。
出来れば戦闘魔法の適正であれ、とハンスは思った。
色が濃くなり始める。
初めは緑が色濃く出ていたため少し焦ったが、最終的に赤と緑とが混ざらずに反応が終わった。
「これは...君、すごいですね。なかなかありませんよ、こんなこと。」
メディという女性が目を輝かせながらハンスに話しかけた。
「そうなんですか..?」
「もちろん!お友達に自慢していいと思います!色が混ざらなかったということは、このどちらにも強い適性があるということ!私は初めてこの反応を見ました。」
「そうなんですか...」
この時、ハンスは一刻も早くこの場を去ることしか考えていなかった。
なぜなら、彼にとって人前に立ち、さらに目立ったことをするなど、今までに経験してこなかったからである。
真剣に魔水晶の観察をするメディという女性は、ふと我に返り話し始めた。
「それじゃあ、もう帰っていただいて大丈夫ですよ。貴重な経験をありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」
メディという女性はにっこりとしながら言ってきたため、ハンスもぎこちない表情でにっこりと笑い、返事をした。
そして、ハンスは早歩きで大講堂を後にした。
大講堂を出てすぐ、ハンスは大きな深呼吸をして心を落ち着かせた。
とりあえず、魔法学園の入学は決定したのだ。
「これで母さんとリグルト先生に良い報告ができるぞ!」
ハンスはその日、年一の超スピードで家に帰った。
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