第10話 お姉さんはいつまでもピチピチが良いに決まっている。

そんなこんなであっという間に六年間が経った。


先生との魔法術語学勉強で地下室の本の内容を理解できるかと思いきや、全くできなかった。


本には一種の暗号魔法のようなものが施されているため、魔法術語学の勉強をしたところで読めるわけが無かったのだ。


じゃあ何で六年間も勉強したのかって?


魔法学園に入ってから出遅れないためだよ。


嘘。先生との「ふれあいタイム」のためである。


六年も経ってしまったら先生は老けてしまうのではないのかって?


そこは大丈夫。俺先生のこと大好きだし。


それに俺には万能魔法、『分解』がある。


俺は『分解』によって、先生の老化を遅らせていたのだ。


この原理を説明するにはこの世の「魔法」について知る必要がある。


それは、この世の「魔法」の要。


豊かな『想像力』である。


魔法というのは実に便利なもので、「水をどれくらいの量でどのくらい速く射出するのか」とか「火の玉はこれくらいの大きさに留めて、当たった時に爆発する」とか...


ようするに、自分の想像をほとんど意のままに具現化できるのだ。


しかし、具現化できない例もある。


大抵は『魔力量の不足』と、『魔力操作の出来』が原因である。


魔力量の不足というのはそのままの意味で、個人が保有している魔力量が足りないために想像を具現化するに至らないというものである。


実際、『上級魔法』に分類される魔法を使えない多くの人々はこれが原因である。


たまに、『中級魔法』すら使えない人もいるが、そういう人たちには脳筋が多い。


脳筋だから魔法が使えないのか、魔法が使えないから脳筋なのかは定かでは無い。


そして、『魔力操作の出来』に関しては、貴族の人がこれに頭を悩ませる場合が多い。


貴族は元々の保有魔力量が多いため、『上級魔法』を使える人はざらにいる。


しかし、いくら生まれた『環境』が良かったとしても、生まれ持った『才能』が彼らを邪魔するのだ。


『魔力操作の出来』はほとんど生まれた時に決まる。


なぜなら、魔力操作は”感覚”でするものだからだ。


誰しもが魔力操作を”感覚”で行うため、魔力操作を”感覚”以外の言葉で表せる人がいないのだ。


それ故、魔力操作を教える人がいない。


教える人が居なければ、上達など到底不可能である。


しかし、俺は『才能』に恵まれていた。


生まれて間もない頃から『分解』を使うことができていた。


だが、俺はその状況に慢心を持たず努力を欠かさなかった。


そして、毎日の修行の中に魔力操作の修行を取り入れた結果...


俺は間違いなくこの世の「魔力操作上手ランキング」の五本の指に入るくらいまでには上達したのだ。


その結果、俺の『分解』は人間の体内にある老化した細胞を分解することができるまでになった。


分解された細胞はしっかり体に還元され、新しい細胞に生まれ変わる。


俺はついにミクロの世界にまで手を出せるようになったのだ。


そう。そのおかげで、先生は六年経ってもお肌がぴちぴちのままなのだ。


それに合わせて、俺が作った「特製スライム化粧水」を使えばさらに効果アップ!


先生には毎日のお礼として、一週間分を毎週渡し続けていた。


化粧水を作ったのはこのためだったのだと俺は思った。


そのおかげで約五年間の「ふれあいタイム」は俺の体に癒しとして、永遠に刻まれ続ける賜物となった。


ただ、そんな癒しも明日からは終わりである。


明日は待ちに待った、待たされ続けてきた魔法学園入学である。


俺には友達と言える友達がいないため、学園に行くのには少々不安がある。


もしかしたらヴァルもいるのではないか、という淡い期待を胸にその不安をかき消しているが。


そんな時、ふと俺は前世の宿主が「学校」なるもので、ストレスを溜め込んでいたのを思い出した。


「ヤンキー」という職業?なのかな、それからの使い命令だとか、「課題」という魔物に追われていたことを思い出す。


今俺がいる世界と宿主の世界は、全くの別物だからそんなことが無いことを祈るばかりである。


今のところ「ヤンキー」という職業を聞いたことが無いのがせめてもの救いである。


毎日の修行のノルマをこなしながら、そんなことを考えていたら、すっかり夜更けだった。


俺は家に帰るなりすぐに飯、風呂、着替えを済ませる。


「明日って荷物いらないんだよね...?」


俺はよく思い出しながら呟いた。


少し不安が増えてしまった。多分要らなかったはず。あっても教科書とか配られてないし大丈夫だろう。


俺は、様々な不安を抱えたまま、窓から見える三日月を眺め、眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「魔法学園入学者は、一番受付から三番受付で名前と招待状の提示をお願いしまーす!!」


看板を掲げている男性は大量の人を前に少し大変そうに呼びかけていた。


「ここが魔法学園か...思ったよりも人が多いな。」


人混みが嫌いなハンスはとりあえず一番早く済ませられそうな列に並んだ。


十分くらい経って、


「名前と招待状の提示をお願いします。」


窓口の男が言った。


「名前は『ラインズ・ハンス』。招待状は..これです。」


ハンスは少し手間取りながら男に差し出した。


「ラインズ・ハンスさんですね....名簿に名前が無い...でも招待状は本物だ...」


男が不思議そうに、また悩みながら呟いた。


「なんか不備でもありましたか?」


不安そうにハンスが聞いた。


「いえ、こちらのミスです。問題ありません。登録は完了いたしました。どうぞ受験会場の方へお進みください。」


「分かりました。ありがとうございます。」


少ししてから、ハンスは胸をなでおろした。


七年間待たされた上に入学できませんとか言われた時には、この学園を破壊してしまうだろう。


そんなことにならなくてよかった。


そんなことを思いながら、ハンスは受験会場へと足を踏み入れたのだった。

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