第6話 王の遺品
何が起きた?
王は死んだのか。あるいは俺が死んだのか。記憶がはっきりとしない。
ここはどこだろうか。一面が真っ白で何も見えない。
空に浮かんでいるような、だが地に体がついているような、気持ち悪い感覚がする。
意識は...多分ある。だが、体があるのかどうかは分からない。五体満足であればいい。
ところで俺は何をしていたのだろう?
.....修行だ。森での修行に勤しんでいて...それで...
男の子を見つけたんだ。そうだ、ヴァルだ!ヴァルはどうなったのだろうか。
生きていればいいな。
二廻目の人生はこれで終わりかあ。
意識が薄れていくのを感じる。
もう少し色々なことしたかった。
「終わりじゃないですよ。さあ、起きてください。あなたにはやるべきことがあります。」
何かを頭に流し込まれるような感覚がする。何かの声?なのだろうか。
しかし、声が聞こえても辺りは何一つ変わらない。依然として白い空間である。
それにしても、やるべきこと...やるべきことなんてあったかな..修行?また修行する?それとも、ヴァルの救助とか?
そんなことを考えていると、今度ははっきりと声が聞こえる。
白い世界に少しの歪みができる。
「僕はここにかければいいですよね?」
「そこでいいわよ。私はこっちからいくから。」
聞き覚えのある声。ヴァルと俺の母だろうか。
だんだんと視界が赤っぽくなっていく。
「それじゃあいきますよ!!」
「せーの!!」
バッシャーーン!!
「!?」
突然顔と腹に水をかけられ思わず飛び起きる。
そこには見慣れた風景が広がっていた。
キッチンにテーブル、意味わからん本が置いてある部屋のドア。
ここは家だ。
「やっと起きたね。ハンス!」
「あんまりお母さんのこと心配させないでよ。」
ヴァルと母が少し涙ぐみながら、さらに水をかけてくる。
「ちょっやめろって!もう起きたから!」
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部屋にまき散らされた水を三人で拭きながら、どういった経緯でここまで来たのかを聞くと、母が俺に化粧水を作ってほしかったらしく、材料を集めておけば作ってくれると思った母が、スライムを狩りに森の中へ入ったらしい。
すると、森の奥深くから何度も大きな音が聞こえたので進んでみると俺とハンスがボロボロになって寝ていた。
「で、それを見た母がとりあえず家に連れて帰らなきゃってことで担いで連れてきたと?」
「そうよ?結構大変だったんだから。」
ナイス母。
「ところで、ヴァルの怪我はどんな感じ?」
「すっかり良くなったよ。まだ痛むけど、そこまでって感じ。僕よりも自分の心配してよ。」
「俺は別に怪我なんて...」
体を隅々まで見る。特に怪我をしたわけじゃないと思うんだけど...
「怪我なんてしてないよ?」
「手..よく見て」
「手?」
指先に付いているはずの物がない。爪がない。え?なんで?
「爪が無いわ...」
「反応それだけ!?」
ヴァルと母の声が揃う。
「うん。特に痛くもないし、血が出てるわけでもないから...」
「そっか...ハンスがいいならいいや。」
「それに、回復薬ぶっかけとけばすぐ治るしね!」
「はぁー...」
ヴァルと母がため息をついている。
「俺よりもヴァルの怪我を見せてくれよ。木の破片とか埋まってたら取らなきゃだめだからな。」
そう言いながらヴァルの服を掴み脱がそうとすると、
「ちょっほんとに僕は大丈夫だから!怪我見せて余計に心配されたくないし!」
と言われ、手を振り払われてしまった。
「そうか...見せたくないなら見せなくても大丈夫。ただ、我慢のし過ぎは良くないからな。なんかあったら絶対俺に言えよ!」
「う、うん。分かったよ..」
少し困りながらヴァルが言った。
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その後、もう夕方で帰るのには危ないからということで、ヴァルが家に泊まることになった。
ヴァルと母は、俺が気絶していた間に仲良くなったのか、二人で同じベットに寝ている。
そして俺は一人寂しく屋根の上で星を数えながら寝た。
次の日の朝、家の中を見渡してもヴァルはいなかった。
テーブルの上に置いてあった手紙を残して家に帰ったようだ。
手紙には、
「迎えが来たので帰ります。お世話になりました。おばさんの化粧台の上にあった化粧水をいただいていきます。昨日のお礼はこれでお願いします。」と書いてあった。
やはりどの人も化粧水が好きらしい。こりゃ大儲け間違いなしだな。
その後、俺はまた修行を再開した。半分はまたヴァルに会うため。もう半分は金稼ぎのため。フフフ
もしかしたら、王が何か素材を落としていてくれたらいいなと願い、王と戦った地にもう一度行くことにした。王の皮とか絶対高く売れる。
スライムを適当に狩りつつ、目的地に着く。
「やっぱり何にも無いかー...」
大体予想はしていた。
『分解』もとい、『vanish』で跡形もなく消えていった王の遺品は何もない。
あるとすれば、俺とヴァルの血痕が少し残っているくらいだ。
それでも俺は諦めきれず、辺りを隈なく探した。
土の中、茂みの中、とりあえず見えるところは全部探した。
三時間たった。
成果はなんと!なし。
知ってた。
こんなことになるなら全部分解するんじゃなかったわ。
仕方なく帰ろうとした時、足元に不自然なほどに黒く染まった石を見つけた。
「なんだこれ?王の遺品でもないよな...宝石商が落としていったのか?だとしたらラッキー!」
唯一の成果が得られたことで満足した俺は宝石を無くさないうちに家に帰ることにした。
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