第18話 戯劇の始まり
学園クラス対抗戦1試合目開始5日前。
「そういえば、いつハンスとニールは知り合ったの?クラスが同じなのは分かるけど、君たちに何かの接点があるとは思えないんだけど。」
ヴァルはニールを少し睨みながら言った。
「も、元々は、ヴァルさんの言う通り、ハンス君との接点が一つも無く、私も関わることが無いと思ってたよ。で、でも、あの日、ハンス君が助けてくれたから......」
「『助けた』ってどういうことなのハンス?」
ヴァルは俺にニコニコしながら聞いてきたが、どこか殺気が混じっている気がする。怖い。
「助けたって言っても大したことじゃないよ。ニールが変な人たちに絡まれてたとことを助けただけ。本当にそれだけ。」
「ふーん。そっか。まあ、僕も助けてもらったことがあるし、『ニールよりも先に』ね。」
「ぐぬぬぬ.......」
「はい、こんなところで喧嘩しないでくださーい。皆さん見てますからねー。お昼くらい静かに食べましょうねー。」
俺は二人が睨み合っているのを気にすることなく、ヴァルの手作り弁当を食べ始めた。
そういえば、一昨日くらいに言ってた『俺とのペアはどっちなんだ対決』みたいなのはどうなったのだろう。
「あのさー、学園クラス対抗戦の時に俺とペアになるのはどっちなんだ?みたいな話してたでしょ?あれ結局どうなったの?」
俺がそう言うと、ヴァルは笑顔になり、ニールは俯いた。
「その話のことなんだけど、ハンスとペアになるのは僕ってことになったから。ね?ニール。」
ヴァルがにやにやしながらニールの方を見て言った。
「ざ、残念だけど、そういうことになったんだ......」
「まあ、僕意外とハンスが組むなんてありえないからね。」
ヴァルが自慢げに言った。
「いや、でもさー、まだメディエル派から出場する10人って決まってないんでしょ?それじゃあペアを決めたところでって感じするんだけど......」
「え?ハ、ハンス君知らないの?もうメディエル派の出場者は決まってるんだよ?」
俺はその言葉を聞いて、「え?」と拍子抜けした声を出してしまった。
「ハンス、本当に知らなかったわけ?昨日の放課後に掲示しておくってメディエル派の役員生徒が言ってたじゃん。」
まじですか?完全に初耳なんだけど。
「それっていつの話?」
「き、昨日の朝の時間に、役員生徒が少し話す機会があって、その時だったよ。」
マジか......完全に聞いてなかった。朝の時間は登校タイムアタックで疲れて寝てるからなあ......流石に朝くらい起きてなきゃダメか。
「そうなんだ......ん?でもちょっと待って。今までの話的に俺たち3人は出場することになってないと辻褄が合わないよね?」
「そうだよ。僕たち3人がメディエル派出場生徒10人の中の3人だよ。」
「おいおい、勘弁してよ。俺、出場するの?俺以外に優秀な奴いっぱい居るでしょ。」
俺はため息をつきながら言った。
「ハンス以外に僕とペアになれる人は居ないからしょうがないよ。」
「ってことはヴァルが俺を出場させるように仕向けたってこと?」
「さあ?どうだろうね。」
絶対こいつだ。ヴァルが出場するのは『メディエル派』を代表するという理由が付くから分かるけど、俺に関しては別に何でもないからな......他の生徒から反感を買われてたりしなきゃいいけど......よりによってファンクラブと思われるものさえある『メディエル・ヴァルエイド』とペアになるなんて、反感を買う材料にしかならないじゃん。でも、負けたら何か言われるかもしれないけど、勝てば何も言われないよね......そう信じたい。
「でも、まあいいよ。勝てばいいんだよね?勝てば。」
「そ、そうだよ。他の派のペアをボコボコにすればいいの。ハンス君なら簡単だよね?」
「そうそう、ハンスならできるでしょ?何せ、あんな力を持ってるんだからさ。」
「あ、あんな力って、いったい何のこと言ってるの?ヴァルちゃん。」
「それはね、僕とハンスの秘密だよねー、ハンス。」
俺は、何のことでしょうか?という顔をして誤魔化した。
「ま、またハンス君とヴァルちゃんの秘密なの?」
ニールが頬をぷくっと膨らませて拗ねている。可愛い。
それにしても、あと5日で初戦なんだけど、攻め方とか何も決めてないよね。
流石に戦略とか必要になるよね。
「そんなことよりさあ、ヴァル。あと5日しかないけど、戦略とか考えてある?」
「もちろん考えてあるよ。僕とハンスでボコボコにする。それだけ。どう?簡単だと思わない?」
それだけ聞けば簡単なのは間違いないでしょうね。
「それって戦略でもなんでもないじゃん......」
「まあまあ、臨機応変に対応すれば何とかなるって。大丈夫。僕とハンスだから。」
その自信はどっから来るんだ?教えてくれ。
「ていうか、ニールは誰と組むことになってるの?」
「わ、私は......分からない......きっと誰かがペアになってくれると思ってるんだけど......」
こんな3人がメディエル派の代表になっていいのか?まずいだろこれ。
俺は俺たちを選んだメディエル派生徒役員はきっと見る目が無いのだと思った。
まあ当日になったらどうにかなるかー。
俺はそれ以上、試合について考えずヴァルの手作り弁当を食べ進めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
狭く暗い部屋。中心には石でできた円卓があり、地面から突き出た石の椅子が6つある。
ドアは無く、壁は吸い込まれるような漆黒の物質で成されていて、部屋の四隅に掛けられた蝋燭が青く静かに灯っている。
その部屋に人が3人。
6つの椅子に間を1つ開けて座っている。
「おい、あの計画はどこまで進んだんだ。未だに進捗が見られないようだが。」
全身を漆黒のフルプレートで覆っており、ヘルムの隙間から見える目は、黒くくすみ、目を合わせれば深淵を覗いたかのように見える。
その男が部屋を低い声で響かせた。
その声の響きに恐ろしさを感じ焦ったのか、漆黒のローブを身に纏っている男が慌てて口を開いた。
「あ、あの計画は順調に進んでいます!元々、あの計画は長期的なものでしたので、あまり進捗が見られないのも仕方がないことなのです!」
その慌てた声に被せる様に、同じく漆黒のローブを纏った女が話し始める。
「それって職務怠慢なだけじゃないの?今回の計画の目標、あの子たちはそんなに手強い様には見えないけどね。」
「しょ、職務怠慢!?そんな訳は無い!そんなこと言うのなら、最初から君がやればよかったじゃないか!」
「だってー、あんた今仕事何も無いわよね?あんたがやってた王の実験、王が死んでからもうできなくなっちゃってるじゃない。だ・か・ら、あんたに仕事をあげたってわけ。感謝されても良いくらいだと思うけど??そもそも、あんたがちゃんと王を調査しておけば良かったことなのよ」
「感謝だと?ふざけるなよ!君が面倒だと思った仕事を僕に押し付けただけじゃないか!」
「そんなことあるわけ無いじゃない。変な言いがかりはやめて欲しいな。」
「言いがかりなわけあるか!大体いつもいつもそうやって君は......」
ローブを身に纏った男が話しているところを遮るように、部屋の中でフルプレートの男の低い声が響く。
「うるさい。頭に響く。それ以上やるならここから出て行ってからにしてくれ。」
「も、申し訳ございません!」
ローブの男は円卓に頭をぶつける勢いで頭を下げ、謝った。
「まあいい。順調に進んでいるならそれでいいんだ。”才能”の芽は摘んで保管しないといけないからな。ぬかるなよ。」
「承知しました。」
ローブを身に纏った男はそう言うと、その場から逃げるように消えた。
「本当にあいつに任せて大丈夫なの?」
ローブを身に纏った女が、髪をいじりながらフルプレートの男に尋ねた。
「ああ、あれはあいつに任せておけば良い。どうせ誰がやっても同じ結末になるだろうからな。」
「そう。じゃあいいんじゃない?じゃあ、私もここらへんでお
女はローブを翻すとその場からはもう消えていた。
「さあ、戯劇を始めようじゃないか。」
フルプレートの男はそう言うと、部屋から消え去った。
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