学園クラス対抗戦

第20話 試合開始直前

そして試合当日。


ついにこの日が来てしまった。

今日も昨日に引き続き、ヴァルの執事さんのグイールさんが迎えに来てくれた。

ヴァルと友達で本当に良かった。


俺はヴァルと学園に向かう最中に、作戦会議をした。


俺の『魔法が使えない』という圧倒的不利をどうするのかとか、

ヴァルは元から魔力操作が苦手であることとか。


色々話し合った結果、俺たちが導き出した答え。


それは......


「ボコボコにするしかないよね。」


「そうだなー。ボコボコにするしかないよなー。」


完全に脳の溶けきった会話の中で、俺たちに答えなど出せるはずがない。


俺は昨日から『試合で魔法使えないとか絶対許されないじゃん』という不安に駆られ、寝不足。

ヴァルは昨日から『もしも、このままハンスが魔法を使えなかったらどうしよう......』という不安で寝不足。


ペアの両方が寝不足ってどうなん?と思ったが、ここまで来たらもう後戻りはできない。


俺たちは何とかなると信じ、学園に行ってから色々考えることにした。


もちろん馬車の中で二人とも爆睡した。


ーーーーーーーーーーーーーー


石造りの闘技場に集められた生徒たちは、一般に生徒が使う席とは別に用意された、ガラス窓で覆われた2階席に居る学園長を見上げている。


学園長が座っている木で作られた椅子には、豪華な彫刻が施されているが、金や銀などの派手な装飾は無く、落ち着いた雰囲気を漂わせている。


学園長は立ち上がり魔法を使って、言葉を闘技場に響かせた。


「おはよう。今日は待ちに待った第一試合だ。コルト派も、メディエル派も全力を尽くして頑張ってくれ。後付けで申し訳ないのだが......今回の優勝した派の生徒には『特別支給』が待っているから、十分に期待しておいてくれ。『特別支給』の内容は優勝した時に発表する。それでは、皆の健闘を祈る。」


いきなり発表された『特別支給』の言葉に、生徒たちがざわめく。


あるところでは、


『特別支給は金なんじゃないのか?』

『いや、これはあるルートを辿って得た情報なんだが、伝説の魔道具の可能性があるらしいぞ』

『さすがにそれは無いだろ。せいぜい支給されても、魔導書とかでしょぼいのばっかりだろ』

『いや、そうとも限らないらしい。何せ、最近市場で大規模な金の動きがあったらしいからな。もしかするとそれと何か関係があるのかもしれない。』

『それは興味深いな』

『もし本当に伝説の魔道具だったら......全員が喉から手が出るほど欲しがるだろうな。』


などと、色々な憶測が飛び交っていた。


そして、ハンスたちも『特別支給』について話をしていた。


「『特別支給』だってよ。何があるんだろうね?」


「さ、さあ?今周りから聞こえてきた感じだと、伝説の魔道具とかかもって話しだけど......」


「伝説の魔道具って例えばどんなんがあるんだ?」


「わ、私が知ってるのは、『永遠の魔力液エタニティ・オーラ・リキッド』と『残界の神判ワールド・ジャッジメント・オブ・ゴッド』かな」


「なんか名前聞いただけじゃよく分からないやつばっかりだね。」


「え、えっとね、一個目の方は、保有魔力量を無限にする液体らしくて、一滴飲むと、魔力が永遠に尽きることは無いって言われてるんだよ。

に、二個目は、世界の理に触れられるって本には書いてあったけど、正直どういう性能なのかは分からないんだよね。」


「なんじゃそりゃ」


そんな会話を交わしていると、メディという女性が学園長と代わり、ガラス越しに喋り始めた。


「それでは、コルト派とメディエル派の皆さんは控室の方で試合開始まで、準備の方をしてお待ちください。それ以外の生徒の皆さんは、速やかに派ごとに指定された観客席まで移動してください。

尚、闘技場は空間魔法によって多重化されますので、全試合を同時に行います。

観客席からは、全ての試合が見られるようになっておりますので、試合ごとに空間の移動は不要です。」


そう言うと、彼女は学園長の斜め後ろにある椅子に座った。


「なあ、『空間魔法で闘技場が多重化される』ってどういうこと?」


俺はニールに聞いた。


「え、えっとね、多重化っていうのは、すごく簡単に言うと、その空間をコピーして重ねるって感じで、今回の場合だと、闘技場を5個コピーして、それが同じ空間に重なって存在してるって感じ。空間同士の影響は受けないから、仮想世界を創り出す感覚に似てるかもね。そこで全試合を一気に終わらせるんだと思うよ。」


「いや、まあ、よく分からないけど、大体分かった。うん。一気に試合ができて便利なのは分かったよ。ありがとう。」


「そ、それなら良かった。」


「それじゃあ、僕とハンスは先に控室の方に向かおう。準備しなくちゃいけないことがたくさんあるからね。」


ヴァルは含み笑いをしながらニールに言った。


「わ、私も準備しなくちゃだから、行くね。ハンス君、試合頑張ってね。」


「そっちも頑張れよ!」


「僕たちが勝手も君が負けたら意味無いから、頑張りなよ。」


「ハンス君、ヴァルちゃんありがとう。バイバイ......」


ニールが言い終わると、少し寂し気な背中を見せ、この場を後にしていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「学園長は今日の試合、どう見ておられますか?」


メディという女性が学園長の横に立って話した。


「そうだね......記念すべき第一試合。なかなかのものになるんじゃないかな。

特に、入学試験の時に君が見たと言っていた『ヴィーレ色』の彼。

確か名前が『ラインズ・ハンス』だったかな。彼は期待ができそうじゃないか?

もちろん、『ヴィーレ色』というだけで何も特徴の無い生徒など今までに見てきたが、彼がその一人なのか、それとも”才能”の持ち主なのか......ここが気になるね。

それに、ハンス君の対戦相手、彼らもなかなかの手練れじゃないか。

この一戦でハンス君に”才能”があるのか無いのかを見分けることができる。

なかなかに重要な一戦だと思うよ。」


学園長の言葉を聞き、メディという女性は頷いた。


「それに、エイディ家も参加しているんだって?彼女はどんな戦い方をするんだろうな。エイディ家は一人一人の個性が強いから、見ていて飽きないね。

メディは何か気になる人は居るのかい?」


学園長がメディという女性に質問した。


「そうですね......やはり『メディエル家の恥』がどれほど失態を侵さずににいられるのか、ですかね。」


彼女は少し顔を歪ませて言った。そこには、嫌悪の感情があらわになっていた。


そんな彼女をなだめるように学園長が話を始める。


「まあまあ、そう言うな。彼女だって、彼女なりに頑張っているのだろうからね。ハンス君とペアになったみたいだし、これから成長するのかもしれないね。」


「そうとは思えませんね。同じメディエル家として本当にお恥ずかしい限りです。」


そう言うと、彼女は嫌悪の表情を浮かべながら自席へと戻った。


「これからが面白いんじゃないか。どこまで楽しませてくれるのか......」


学園長は会場に居るどの人よりもこの大会を楽しんでいた。

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