第22話 暗黒騎士

「あなたは......」


ハンスは漆黒の全身鎧フルプレートに身を包んだ騎士を見て言った。


「私が誰だかはお前にとって重要じゃない。それよりも、俺の問いに応えろ。お前はお前自身をどこまで分かっている?」


騎士は空間を響かせるような低い声で言った。


「いや、どう考えても重要ですよね?名前くらいは......」


「ふむ......『名前』か......これと言って『名前』というものは無い。俺を呼ぶ名は人によって様々だからな。強いて言うならば......『魔英傑第2席』と言ったところか......」


「『魔英傑第2席』......どこかのギルド名か何かですか?初めて聞く名前ですね。」


「そりゃあそうだろうな。ギルド名......ではないが、この名で呼ぶのはこの世に一人だけ。それに、たまにしか呼ばないから聞いたことが無いのも無理はない。」


いや、そういう問題じゃないだろ、とハンスは心の中でツッコんだ。


「それで、なぜあなたがここに?」


「さっき言っただろう。お前がどれ程、お前自身を分かっているのかを聞きに来たんだ。」


「どれくらい俺が俺自身を知っているか......」


「『知っている』ではない。『分かっている』だ。いいか?

知っているというのは、ただその物事を既知しているだけだ。

だが、それでは意味が無い。その既知した物事の本質を理解する。

それこそが『分かる』ということであり、知ることよりも重要なことなんだ。つまるところ、『理解する』ということだ」


「は、はあ......」


ハンスはそうなのか、と少し頷いた。


「それで?お前はお前自身をどれだけ分かっているんだ?」


「そう言われると、どう答えたらいいか分からないですね」


ここまで引っ張っていて答えられないのか、と騎士は少しため息をついた。


「では、お前は『何』だ?」


「俺は......ハンス。ラインズ・ハンス。生まれは学園から一時間くらい歩いたところにある森の近くの家。母さんはラインズ・マーレ。父さん.....はイレイヴ。俺はその二人の息子です。」


「それだけか?それが『お前』か?」


「俺が分かっているというか、知っているというか......そんな感じのやつはこれくらいしか無いと思いますけど......」


「そうか......分かった。それが『お前』なんだな。」


騎士は何か考えた後に話を続けた。


「そうだな......お前は魔法についてはどこまで理解している?」


「魔法か......保有魔力量が人によって違うとか、魔力はイメージと感覚が大事とかそんなことくらい?」


「ほう......意外と知っているな。だが、先ほども言ったがお前は『分かっている』訳ではないな。お前は、魔法を『理解』したいか?」


「まあ、できることなら。」


ハンスは、理解も何も使えてる時点でおおよそは十分じゃないのか?と思った。


「それでは、お前に魔法の神髄を教えてやろう。」


騎士がそう言うと、手のひらを上にし、胸の辺りで何かをし始めた。


すると、手の上に黒とも言えず、紫とも言えない、色の不確かな『何か』が集まり始めた。


それは、粒の様に細かく見える時もあれば、まとまって水の様にも見えた。


「これが魔力だ。お前たち、『魔力』を”知っている”者が言う『魔力』。そのものだ。これが、お前たちの体の中に在る。普段、お前たちはこれを使って魔法を出す。

だが、これが無くなったらどうなる?」


「魔力が......使えなくなる。」


ハンスは自分の体を見ながら言った。


「そうだ。魔力が無い者は、魔法が使えない。では次に、こちらを見せよう。」


騎士はそう言いながら水獄に手を当てた。


ハンスが手を当てた時は手がはじかれてしまったが、騎士が触れても手がはじかれることはなかった。


騎士が水獄に手を当てると、先ほどの様に、手のひらに魔力が集まってきた。


その状況をハンスに見せながら騎士が言った。


「どういう原理か、お前に教えてやろう。先ほど、私は魔法を出すためには魔力が必要だと、そう言ったな。そう、魔法は魔力によって創り出される。で、あるとするならば、魔法によって創られたものは魔力そのものだ。」


騎士は、あまり理解していなさそうなハンスの顔を見て、少し考えた後話を続けた。


「例えばこの水の檻。傍から見れば、『水』が檻の様になって私たちを囲んでいる、という風に見えるだろう。だが、この『水』は魔力から創られた魔法だ。だが、私に言わせてみれば、これは『水』の形をした『魔力』というわけだ。」


「じゃあ、魔法を魔力に変えることもできると?」


「そうだ。今見せているのがまさにそれだ。」


騎士は、水獄から手を放し、ハンスに『魔力』を見せて言った。


「そして、この集まった魔力は地に戻る。」


「体に入れて保有魔力にすることはできないんですか?」


ハンスは好奇心で聞いた。


「いい質問だ。人はそれぞれ、何らかの法則に基づいた『形』を持った魔力があると、我々は知っている。『形』は色で知ることができることもあれば、細かさ、動き方など、様々な方法で知ることができる。人それぞれの『形』に合った魔力でなければ、その魔力は保有魔力にすることができない。」


騎士は魔力の集まった手のひらを地面に当て話を続けた。


「だから地に返る。そして地に返った魔力は、再び世界によって集められた後、また何らかの、誰かに合った魔力の『形』に変化して誰かの元に返る。」


「なんでそんな難しいことを知っているんですか?」


ハンスはさらに質問をした。


「私には分からない。偉大なる我が君に聞けば答えを教えてくださるかもしれんな。」


「『偉大なる我が君』......なんか凄そうですね。」


「なんか凄いどころではない。あのお方は、あのお方こそが!......いや、すまない取り乱した。あのお方の偉大さを伝えようとするといつもこうでな。」


騎士は咳ばらいをして調子を整えた。


「その『偉大なるお方』は魔王とか?」


ハンスは適当に聞いてみた。


「......ご名答。一度は殺されたはずの魔王の再来だ。これほど嬉しいことは無いだろう!」


「......」


今まで低い声で喋っていた騎士が、突然少し高い声になり話始めるためハンスは驚き言葉が出なかった。


「それで、魔法について教えるのはこれで終わりですか?」


「いいや、そんなはずはない。ここからだ。ここからが魔法の真髄である『イメージのその先』であり、”才能”を極限まで輝かせるための教育レッスンだ。」


騎士がそう言った後、騎士がハンスの頭に手を当てた。


そして、ハンスの意識は薄れていった。

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元ランゲルハンス島b細胞の『分解』魔法は異世界で最強! 花波 @hananami-0207

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