第23話 神界観光

 神界に着いて一番驚いたことは、みんなが魔王より派手に飛んでいる事だった。白く大きな翼をばっさばっさと動かし、好きに移動している。だから店も地面から浮いていたりした。

 魔王はその中でも、一際高い場所にある石碑に俺を連れて行った。もちろんコレも浮いている。

「ここが神王ちゃんの生まれた場所と言われているわ」

「ハッキリは判らないんだな」

「生まれたての神王ちゃんには、判らなかったんじゃないかしら? それよりもこの世界を作るのに忙しかったはずよ」

「魔界や冥界、人間界も神王が作ったのか?」

「そうよ。理由としては――死と輪廻を扱う冥界でしょ。冥界に死者を送り込みつつも、見ていて楽しい人間界。瘴気を集めた魔界って感じかしら?」

「なるほどな」

 説明を聞きながら眺める石碑には、人間型の手が彫刻されている。ちょうど握手の形に近い。せっかくだし俺も握手の真似事をしたくなった。

「魔王、もうちょっと下に飛んでくれ。握手がしたい」

「いいわよ~、ただ、ビリビリ来ると思うから注意してね」

「ビリビリ?」

 何だろうと思いつつ、握手型の石碑に触れる。

「ニギャーーーー!!」

 俺は情けない声を上げてビックリした。ビリビリどころではない、全身に衝撃が来て気を失うところだったと思う。

「魔王! 背中から落っこちたらどうするんだ!?」

「それは助けるけど……まぁコレ、神界の一番ありがたい石碑なのよ。それに魔族のアタシたちが触れたら……ねぇ?」

「先に言ってくれ!!」

「ビリビリするって言ったじゃない」

 ぎゃーぎゃー言いながら、魔王と俺は石碑を後にした。


 次に魔王が案内してくれたのはカフェだ。ここは地面に店がくっ付いているので、魔王の背中から下りた。そのまま店内に入れば、とても香ばしい匂いがする。俺はすごく好きだ。

 魔王と俺は、ゆったりしたソファに腰掛けてから、『本日のオススメ』のホットコーヒーを二杯注文した。

「ワクワクするな、魔王!」

「そうね、ここに来るたび、どんなコーヒーに出会えるか楽しみなの」

「そういえば城だと紅茶ばかりだな。なんでだ?」

「単純に魔界ではコーヒーの木が育たないからよ。でも神王ちゃんに頼んで、豆だけ持って来て貰おうかしら。あとはメイドをコーヒー職人に弟子入りさせないと……」

「……本格的過ぎる」

 そんな事を喋っているうちにコーヒーがやってくる。飲んだことのない真っ黒に近い液体。でも、とてもいい香りが鼻腔をくすぐる。

「熱くて苦いわよ、でもそれが良いの」

「へぇ~……」

 魔王が早速飲んでいるから、俺もカップを傾けた。

「香ばしいな! 苦いけど、しつこくなくて美味い!」

「そうね、アタシもそんな感想だわ」

 俺と魔王はゆっくりと『エンジェリア・ブレンド』なるコーヒーや、神界ならではの豆を何杯か楽しんだ。なので、ふと気づけば正午だ。

「じゃあ神殿に行きましょう」

「まだ観光していいのか? そろそろ神王の所へ行った方が……」

「やあね、一番立派な神殿の奥に、神王ちゃんの家があるのよ!」

「さすが神の王なだけあるな」

 魔王と俺は話しながらカフェを出る。その際、魔王が金を支払わなかったのが気になった。

「どうしてだ?」

「前回、神国金貨で支払ったら、向こう一年間飲み放題って言われちゃったの」

「金は崩して持って行け!」

「金貨を崩すの大変なのよ、わざわざ両替所に行って、銀貨の袋を持たされるんだから」

 それは確かに面倒だ。まぁ執事のトンがいれば、銀貨や銅貨くらいは用意していたんだろうが。

「記憶がなくてすまない……」

「どうしてそうなるの!?」

 しょんぼりした俺に、魔王が根掘り葉掘り尋ねてくる。そうして最後は笑っていた。

「アタシ今のトンちゃん、とても気に入っているのよ!」

「だったらいいが……」

「あ、神殿が見えて来たわ!」

「おお……」

 確かに神王の神殿は出入り口からして違う。白くて太い、しかも意匠を凝らした石の柱が何本も立ち並び、床は同じく石で出来ているが、ピカピカと輝いていた。歩いたら滑りそうだ。

 魔王と俺は、そんな中をテコテコ奥に向かって歩いた。ここには天界人が多く居て、魔王と俺は非常に目立つ。魔王は視線を気にするどころか喜んでいた。

「ふっふっふ、天界はいいわねぇ、イケメンだらけよ」

「……女性がいないのは何でだ?」

「神王ちゃんの趣味でしょ!」

「ああ……オネェだからか……」

 そのせいか、飾ってある大きな絵画や銅像もモチーフが男性だらけだ。魔王は城にイケメンが居ると落ち着かないらしいが、神王は全く正反対らしい。


 やがて、行き止まりに着く。丸い空間と石像があるだけで、家らしいものは見当たらなかった。

 そこに魔王が叫ぶ。

「神王ちゃーん! アタシ魔王! 来たわよ~!」

「いらっしゃーい! 開けたから入って頂戴~!」

 そんな声と共に、虚空から光の階段が現れる。魔王がカツカツと上がっていくので、それに倣った。光に乗れるなんて普通の事では無いだろう。でもまぁ『それが神かな』で全て納得させられてしまう。

 そこを二十段ほど上ると、やっと屋敷らしきものが見えてきた。建物が淡く発光しているので、外見だけでも全容は不明。だが、神王と従者が出迎えの為に立っているのは判った。神王は黄金色の髪と立派な髭をなびかせている。

「魔王ちゃーん! トンちゃーん! よく来てくれたわねー!!」

「今日はお邪魔するわねー!」

 だんだん神王と俺たちの距離は短くなっていき、ついに捕まる時が来た。もちろん俺が、神王にだ。

「ハイ、トンちゃんはアタシが抱っこ!」

「妬けるわぁ~、今日だけよ?」

「魔王ちゃんにはイケメンを用意したわよ!」

 俺は抱っこされながらも、持っていたアシャーリーの茶葉を従者に渡す。神王はその量に喜んでいた。

「貴重なアシャーリーをこんなに……! きっちりお礼をさせて頂戴ね」

 小さな手提げ袋一つでこの喜びよう。持ってきた甲斐があるというものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺はオネェ魔王のブサ執事だったようです けろけろ @suwakichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ