第3話 恋患い・前編 ③
こうして、われわれ便利屋花丸キュウ微商会は依頼者とコンタクトをとることにした。
この日の夕方には依頼者から返信はあり、急ではあるが翌日の昼頃に、スタッフルームにうかがいますとその返信メールには記されていた。
「便利屋さんにこんなことをお願いしてしまって、申し訳ないです……」
翌日、事務所を訪れた女性はそう言って、頭をさげた。
白のブラウスに、こげ茶色のロングスカート姿の彼女は、写真や動画よりも清楚で若々しい印象だ。
テーブル席に着き、改めてあいさつを交わす。
「いえ、お気になさらず。私、佐野嶋と申します」
テーブルを挟んでサノッチは彼女の向かいに座り、名刺を差し出した。
そのサノッチの横にジュンジは座り、少し離れた机の椅子に、ノブオは着席した。
「どうも、お世話になります。私、
「ええ、もちろん拝見しました。緑黒い人影がどの写真にも動画にも、確かに写っていましたが、いつ頃から写るようになったのか、詳しく教えてください」
サノッチが言うのを聞いて、ジュンジはメモ帳とペンを準備した。
「はい……私が初めてこの人影に気がついたのは、高校を卒業して、就職してすぐの頃でした。確か、新入社員の研修と親睦会を兼ねた、旅先で撮った写真が最初だったと思います。
もう三十年近く前の当時はフィルムカメラだったので、それほど頻繁に写真を撮るということはないですし、動画もビデオカメラやテープが必要なので、特別なことがなければめったに撮らないので……たまに撮影した写真に、人影の写る写真が一枚まざっている、という感じでした。
それが最近、スマホを使うようになって、写真をちょっとしたことでも撮るようになると、何枚かに一枚だったのが、全ての写真に人影は写るようになって……ついに最近では動画にも写るようになりました。
昔は人影が写っていても、私に関係するものとは特に思っていなかったのですが、ここまで写ってしまうと、やはり私が標的になっているというか……」
真実子はバッグからハンカチを取り出し口元をおさえると、もう一方の手で、やわらかな茶色の髪を耳にかけた。
「なるほど……人影が三十年ほど前から写っていたとなると、その頃に、写る発端となる出来事が何かあったということでしょうか? きっと、きっかけのような出来事があったのでは……?」
「きっかけ、ですか……そうですね……」
考えるようにして、彼女は口ごもってしまった。
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