第23話 恋患い・後編 ②


 サノッチは顎に手をあて、考えている。


「……これは今から病院に行っても……とりあえず、ノブオさんは瀬川さんのおっしゃる通りに、赤二郎さんの水槽をきれいにしてください。私は元気になれる食事をご用意しますから」


「え!? いや、病院だろう? 先に病院に……!!」


 震える声でサノッチに詰めよろうとするノブオの手を、瀬川は再び捕らえた。


「ノブオさん、その方の言う通りに……赤二郎を……」


「一成さん……わかったよ」


 ノブオが力なくほほ笑むと、瀬川も安心したように小さく笑った。


「それじゃ、水槽を洗うか!」


 気合を入れなおし、ノブオは辺りを見回す。


 すると瀬川の寝ている布団の足元、壁の隅に机があり、そこに大きくはない水槽が置かれていた。


 その水槽の中には砂利が敷かれ、水草も植えられていて赤い金魚は一匹泳いでいる。


 机の下には水のなみなみ入った青いバケツが置かれており、これが瀬川のいうカルキ抜きした水だろう。


 それらを確かめたノブオはポンプの電源を抜き、赤二郎を網ですくうと、下のバケツに入れた。水槽を風呂場へ持っていく。


 台所ではサノッチが、買ってきたお米をとぎ炊飯ジャーの早炊きスイッチを押して、ネギを刻みだす。


 瀬川のゼェゼェという呼吸とゲホッゲホッという咳だけが聞こえる中、ノブオとサノッチは黙々とそれぞれの作業をこなすのだった。




「ふーう、赤二郎……お待たせ、お待たせ」


 洗った水槽の外側をぞうきんで拭きながら、ノブオは戻ってきた。


 水槽をもとの場所に設置し、きれいにした砂利や水を入れ、水草も植え、そして赤二郎を帰し……とノブオは丁寧な仕事をしたのだった。


「さぁ、私の方も特製のスープが出来上がりましたが……飲んでいただけますか?」


 サノッチは言いながら、白いマグカップに鮮やかすぎる青い液体をすれすれまで入れて、瀬川のもとへと運んでくる。


「な、なんだ!? その絵の具を溶かしたようなのは……本当に食べ物か?」


 布団の脇で、瀬川に水槽の掃除について報告していたノブオは、そのマグカップの中身をのぞいて目を見開いた。


 だが、その青い液体はどことなく甘いバニラアイスのような香りがして、そんな絵の具の青色じゃなければ、とてつもなくおいしそうな感じがする。


「あぁ、いいにおいだ……」


 ほとんど目を閉じたようにしている瀬川は、その甘い香りに誘われ背を起こした。


「さぁ、少しでいいので飲んでみてください。きっと元気になりますよ」


 サノッチは瀬川の背中を支えながら、マグカップを近づける。


 鮮やかな青い液体はその唇に触れ、コクっと音を立て飲まれた。


 その瞬間、瀬川の眉間には深くしわがより、苦悶の表情は浮かんだ。


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