第4話 恋患い・前編 ④


 サノッチの横でノートをとるジュンジには、彼女が何かを言いづらく、隠しているように見受けられた。そこで、声を低くし、彼女に助言する。


「小林さん、隠さずに言ったほうがいいですよ。サノッチ……いや、この佐野嶋はシックスセンスのかたまりといいますか、霊感だけでなくいろんなことを見透かしちゃうような人なので、信頼して先に言ってしまった方が、後々のためにいいですよ」


「そ、そうなんですか……!?」


 真実子は目を大きく見開き、サノッチの分厚い前髪に視線をやる。


「ええ、まぁ……先ほどから小林さんを視ていましたが、どうも何も視えないんです。その人影に関するものは何も……おそらくは、ただの幽霊の類ではないのでしょう。ところで今、写真を撮影しても人影は写るのでしょうか? ノブオさん、ちょっと彼女の写真を撮ってもらえますか?」


 サノッチに言われたノブオは自身のスマホを使い、テーブル席からは少々離れたパソコン机の位置から、座っている真実子の写真を数枚、撮影する。


「あっ、写ってる!! 人影、ちゃんといるぞ!! そこに!!」


 画面を確かめ声を荒げるノブオのもとに、ジュンジ、サノッチ、真実子も駆け寄った。


「ほっ、本当だ!! 小林さんのすぐ横に座っているじゃないですか!?」


 ジュンジが声を上げたように、ノブオが連続で撮った写真の全てに人影は写っており、真実子のすぐ脇に座っていた。


「それに、やっぱり耳を舐めようとしているぞ!?」


 ノブオは人影の顔と思われる部分を拡大する。確かに、人影は真実子の顔のすぐそばで、耳元に口を寄せているようにも見える。


「いや、何か言いたいことがあるんですよ! それで耳元でささやいているんですよ、きっと!!」


 前回よりもやや強めに、ジュンジはノブオの言葉を否定した。


「小林さん、もしも何か身に覚えがあるのなら、私たちに教えて頂けませんか?」


 サノッチは静かに問いかけた。そして意を決した彼女は答える。


「自業自得だろうと言われてしまうかと思って、なかなか言い出せなかったのですが……実は高校三年生の頃、当時の仲間たちと心霊スポットを巡っていまして……ほら、免許取りたての子が、ドライブをしようっていうやつです。みんなでワイワイ行ったのがほとんどなのですが、一カ所だけ、とても怖い思いをしたのを覚えています」


「では、その心霊スポットに原因があるかもしれない、ということですね? ちなみに、その心霊スポットはどんな所で、どんな怖い思いをしたのでしょうか?」


 サノッチは言いながら、真実子をもとのテーブル席へ座るように促す。サノッチとジュンジも席に着き、ノブオも机の椅子に腰を下ろした。


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