第5話 恋患い・前編 ⑤


「私、地元がもともとこの辺で、それでご近所ということもあって、こちらの便利屋さんにお願いしたのですが……

 県内ですが、ここから車で五時間近く、山の方にずっと行ったところ、山中にあるホワイトハウスという心霊スポットをご存じですか? 

 そこへ深夜、五、六人で行って……最初は楽しく見物していたんですけど、女の子が一人、いなくなってしまって……実は彼女、いまだに行方不明なんです」


 固く握りしめたハンカチを口元にやる真実子の顔は、すっかり青ざめている。


「そ、そんな!? ホワイトハウスって、けっこう全国に同じ名前で、いくつもある心霊スポットですよね? テレビ番組でもちょくちょく取り上げられて、そこまで怖いことが起こるようには思えないけど……いや、それにしても、県内にホワイトハウスって本当にあるんですか?」


 オカルト通なジュンジであったが、まさか県内にホワイトハウスがあるとは知らないのだった。


「ええ、私たちの間ではホワイトハウスと呼んでいて……

 確か、一家で無理心中があったらしくて、なぜかその家の長女だけが発見されず、行方知れずのままだという噂があって……

 だから、女の子が一人いなくなったというのがとにかく怖かったし、それに今も、どこへ行ってしまったのか、わからないから……」


「心霊スポットへ行き、女性が一人行方不明……三十年も経つというのに、いまだに行方知れずというのは気になります。一度、皆で行ってみましょうか。小林さんも一緒に行ってくれますね?」


 サノッチの顔半分くらいは分厚い前髪に覆われているため、その表情はわかりにくい。


 だが真実子には、決して断ることは許されない、そんな気迫を感じ取れた。


「は、はい……あまり、気は進みませんが……」


 こうして、われわれ便利屋花丸キュウ微商会は後日、依頼人である小林真実子と共に、深夜のホワイトハウスを訪れることになった。


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