第11話 恋患い・前編 ⑪
穴の入り口は小さく、皆は頭を低くして順にくぐる。そこさえ入ってしまえば、天井は二メートル近くあり、道幅も人が一人通れるほどはあるのだった。
ただ、そこに光はなく、細く暗い道は延々と続いている。
生唾をごくりと飲み込んで、ノブオはゆっくり慎重に歩を進めた。
体感で五分ほど進むと遠く先に光が見え、さらに進むと、急に目がくらむような明るく開けた場所に行き着いた。
「ま、まぶしっ……あっ!!」
サノッチの言いつけを守るノブオは、小さく声を上げると固まった。
暗すぎる通路とは対照的な広く明るいこの場所で、五十人くらいの人々がその辺に転がって、とても気持ちよさそうに眠っている。
子供、大人、老人……年齢も、まして着ている服装の感じもバラバラで違和感がある。
今どきの子供は穿かないような、短すぎる短パン姿の少年や、昔流行ったパーマをかけたおねえさんもいる。
後からやってきたジュンジもその光景に目をまん丸くして、ノブオと同じように固まる。
「こんなところに、こんなに多くの人が寝ているなんて……もしかして、みんな行方不明になっているとか……!?」
「そうですね、きっと行方不明ということになっているのでしょう。ここにいる皆は管に繋がれ、様々なものを共有しているんです。物だけじゃなく、意識のようなものまで……」
サノッチはジュンジの問いに答えるように、つぶやいた。
“騒がしい……寝てる子を起こすでないぞ”
その時、ノブオ、ジュンジ、サノッチ、そして真実子の脳内、あるいは心中にまるで直接、響き渡るように話しかけられた。
それは菩薩様を具現化したような神々しい声で、思わずノブオは声を出す。
「だ、誰だ!? どこにいる……!!」
“たとえ小さくとも声を出すな。念ずれば、我にも皆にも届く……お前たちもここへ迷い込んでしまったのだな。かわいそうに……よし、我の子に迎えてやるぞ。我は全ての母、
その声は体中に響くようで温かく感じられ、ノブオとジュンジ、真実子はその声に全てをゆだね、従ってしまいたい気持ちになる。
“ノブオさん、ジュンジさん、小林さん! 太母の言葉に耳を貸してはいけません!! 太母よ、私たちは人を探しに来たのです。小学校高学年の女の子と若い女性です。会うだけ、会わせてはもらえませんか?”
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