第20話 続・恋患い ④
メールの送信を終えたジュンジがもとの席に着いたところで、サノッチはスマホを操作すると、マツに電話をかけた。
スピーカーの設定にされ、テーブルの中心に置かれたスマホから呼び出し音が鳴り響く。
三人は固唾をのんで、それを見守った。
“んっ? もしもし、サノッチか?”
「あっ! はい、マツさん!! ご無沙汰しております、サノッチです」
起立したサノッチは、スマホに向かって深く腰を折り、おじぎした。
ノブオとジュンジはすかさず、座って、座ってとジェスチャーで彼に伝えようとする。
これはもちろん、ビデオ通話ではなく、こちらの様子はマツには見えていないはずなのだ。
“おい! ノブオとジュンジは礼儀がなっていないな! サノッチだけが!!”
「え!? す、すみません!!」
「ごめんなさい!!」
驚いたジュンジとノブオは瞬時に立ち上がり、深いおじぎを繰り出した。
「マツさん、ノブオさんとジュンジさんがここにいると、よくおわかりになりましたね。さすがです」
“なんだか、予感がしてな。メールチェッグしだら、ちょうどジュンジからメールが来たんだ。その用件で、電話をかけできたんだろ? どうせサノッチ一人にかけさせて、いないフリ決めだんだろうと思っで、カマかけたんだ。へっへ……”
その言葉を聞いた三人は、音を立てないよう細心の注意を払いながら着席する。
“んっ、それで小林真実子って娘の写真に写る影を、なんとかしたいってことだな?”
「はい、そうです。彼女が思い当たる原因に心霊スポット巡りを挙げたので、一カ所見に行きましたが、太母がいたという他に緑黒い人影についての手掛かりは何もありませんでした」
“ふん、太母か。最近はだいぶ数を減らしているようだから……お前たち、めずらしいもん見だなぁ。メールに添付してあっだ写真を見たども、オレにはそんなに悪いもんには見えないがら、娘っ子は大丈夫だ”
「そうですか。小林さんには影響がないということですね? では、そのままにしておいてもいいということでしょうか?」
サノッチは分厚い前髪の向こうから、ノブオとジュンジの二人と視線を合わせた。
“あぁ、娘っ子は放っておいて大丈夫だ。あの娘、なかなかいい性格をしている……あんな影ぐらいで、びくともしないだろう。それよりも、あの影を娘に送り続けているやつの方が危ないぞ。そいつはもうすぐ死ぬな”
「え!? 死ぬ!? 誰が!?」
メガネのレンズの向こうで目玉を落っことしそうにしながら、ノブオは叫んだ。
“だがら、影を送ってるやつだっで! あれは幽霊や死者でなく、生きている人間の念だ。それを三十年も、写真や動画で見えるぐらいに強ぐ念を送っでだら、もうじきだな。放っとけば念も送れなくなるがら、娘っ子の写真にも写らなくなるんだ”
「人を呪わば穴二つ、ってやつか? おそろしいな……」
ノブオは自らを抱きしめ、ブルルンっと身震いした。
“んっ、そういうこどだ。お前たち、むやみに念を飛ばさないよう気ぃづけろよ”
「はい……マツさん、貴重なご見解を、どうもありがとうございました。失礼いたします」
立ち上がったサノッチは再びスマホに深々とおじぎして、通話を終了した。
「小林さんにはとりあえず、影響はないということですね。どうする、サノッチ君?」
メモを取り終えたジュンジは、ふうと息をつく。
「そうですね……緑黒い影の正体は何一つわからなかったことにして、一応、小林さんの身に影響はないということだけ、お伝えしましょうか」
「そうだな。正体は生きている人間で、誰かの念ですよ……なんて、とても言えないな。しかも、念を送っているやつの方が危ない、なんてな」
うんうんとノブオはまた一人で頷いている。
ジュンジは小林真実子に宛て、緑黒い人影による影響が彼女自身には及ばないことを、我々が懇意にしている超絶能力者が言っている、というむねのメールを書き、送信した。
つづく
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