第25話 恋患い・後編 ④
「瀬川さん、大丈夫です。小林さんはあなたの思いをちゃんと受けとめてくれますよ。水槽のスクライングで、私は少し先の未来を見ました。こちらに小林さんが来て、瀬川さんの思いを知り、ほほ笑んでいる様子です。赤二郎さんも大丈夫だとおっしゃっていますよ」
「……本当に?」
瀬川の目に光が宿る。これはいけると踏んで、ノブオはたたみかける。
「おう、サノッチが言うんだから間違いない! サノッチは第六感、いや、そんなもんじゃない! 第十感はある能力者だ。今まで予言は外したことはないし、たくさんの人々を救ってきた!! サノッチの言うことは絶対だ!!」
「本当に?」
「本当です。さぁ、このスープを全て飲み干してください。あなたは最強になります」
サノッチは温めなおした青い液体をマグカップいっぱいに入れてきて、瀬川に差し出す。
気力をふりしぼり自らの力で起き上がると、彼はマグカップを受け取り、それを一気に飲み干した。
「うう……うぉおお!!」
黒と青の液体ですっかり汚れてしまった口元を右手の甲でぬぐうと、彼はそのまま両腕を天に突き上げた。
トン、トントン……こんにちは、小林です。
それとほぼ同時に部屋のドアはノックされ、彼女の声がした。
サノッチがすぐにドアを開ける。
「はい、お待ちしておりました」
「あっ、佐野嶋さん。あの、大至急来るようにと言われて、来たんですけど……」
「どうぞ、お上がりください。彼がお話したいことがあるそうです」
「彼? おじゃまします……」
真実子はベージュのヒールをかがんで丁寧に脱ぐと、それをそろえて立ち上がり、やさしい茶色の髪を耳にかけ、ふり返る。
そこには、布団から立ち上がり白いランニングシャツにゆるゆるのトランクス姿で、両腕を天に突き上げている瀬川がいた。
「小林さん、好きだー!!!」
彼は叫んだ。彼の真っ赤に血走る目と、真実子の目が合う。
彼女もまた、大きく目を見開いた。
「え!? 誰、ですか……」
すぐに目をそらした彼女は助けを求めるように、近くで立ち尽くすノブオとサノッチに、交互に視線を送る。
ノブオは正直、驚いていた。
あれほど衰弱していた瀬川がまさか、あんなにバッキバキ元気に立ち上がるなんて、しかも伸びたシャツによれたパンツで、好きだー! だけを叫ぶなんて……
思っていたのと違うよ。ロマンティックに死に際に、小さく愛をささやいて告白するものだと思っていたのに、違うよ……
そして、大変なことはもう一つあった。ノブオとサノッチは瀬川と真実子の関係を知らないのだ。
真実子にこの人だれと訊かれても、きちんと説明できそうにない。
誰一人、身じろぎできない数秒がここにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます