第7-3話 後編

◇東京地方検察庁

その夜、担当検事の脇田は井上哲郎検事正の元を訪ね、裁判の経過の報告をした。

「またしても、桐生真琴か!特捜事件でひっくり返されたのに、また検察の恥の上塗りをするつもりか」

井上は食べていた白大福を机にたたきつけた。

「申し訳ありません」

脇田が頭を下げ詫びるが、怒りは収まりそうにない。

すると、検事正室にノックをして誰か入ってきた。

「失礼するよ」

入ってきたのは、大柄で威圧的な男と源愛子だった。

「源法務大臣!?」

井上は立ち上がって、礼をした。

やってきた男は、法務省大臣、源源蔵だった。

「うちの娘の事件が、無罪になろうとしているらしいな。

担当検事は君かね?」

源は、脇田を睨みつけた。

「はい、私でございます」

「被告人の無実が白日の下にさらされれば、娘は虚偽の罪で冤罪を生み出した外道と世間から非難され、私までマスコミに叩かれてしまう。

民政党の支持率にも影響を与えかねないスキャンダルだぞ。

ただでさえ、おたくらは西ヶ谷泰三氏の事件で冤罪を生み、支持率をあわゆく低下されるところだったんだぞ。

そこでだ…訴因変更をしろ!」

「訴因変更ですか!?」

「娘は勘違いをしていたようだ

そうだよな、愛子?」

「はいパパ、事件があったのは、12/6午後8時です。その時に駅ビルで、わいせつな行為をされ、50万円を盗まれました」

「そう、娘は12/6にも渋谷に行っている。そこで被害にあったんだ。

弁護側は、12/10からイルミネーションショーの動画を証拠に挙げてきた。

ならば、丁度いいだろう

担当裁判官にも、話は通してある」

「…分かりました」

源源蔵と愛子は、にやりと笑って去っていった。


◇東京地方裁判所 第908号室 第3回公判

無罪判決がでると期待して、真琴と珠希は弁護人席に座った。

だが、裁判が始まるや否や検察は源愛子さんを尋問した。

「愛子さん、あなたが事件にあった日は、12/12ではなく12/6だったんではないですか?」

「はい、そうです。勘違いしていました」

「裁判長、ここで検察側は訴因変更をします。

犯行日時を12/12午後8時から12/6午後8時に変更します」

「検察側の訴因変更を認めます」

裁判長は、あっさり訴因変更を認めてしまった。

「異議あり!この段階での訴因変更は不意打ちです」

真琴は異議を唱えるが

「裁判所としては適法な訴因変更と認めます。異議を棄却します」

裁判は思わぬ展開を迎えてしまった。


◇桐生法律事務所

「やられた…」

珠希がため息をつくと、秀次郎さんが現れた

「見事にやられたな。今回の被害者の源愛子さんだが、現法務大臣の源源蔵の娘だ。

どうやら検察に圧をかけたようだな」

「それって、検察が政治家にひいきにしているようなもんじゃないですか?」

「検察だけではない、訴因変更を認めた裁判所にも圧力をかけたのかもしれない」

「これからどうしようか…」

珠希がため息をつく。

「まずは、佐々木さんに12/6の話を聞いてみよう」

「あと、もう一つ気にあるんですけど…」

紬希がそっと手を上げる

「この強盗にあったとされる50万円って、結局どうなったんでしょうね?

わざわざこんな事件をでっちあげるくらいですから、なにか裏がありそうですね」

「確かに…奪われてないなら何に使ったんだろうか?」

すると、事務所に電話がかかってきた。それを珠希が出る。

「え?分かりました!クライアントルームまで案内してください」

「誰だい?」

「証言をしてくれた櫻井琴子さんです。不気味なメールが来たから、見てほしいとのことだよ」

「分かった、ここは二手に分かれよう。

僕が佐々木さんに話を聞いてくる。珠希は櫻井さんを頼む」

「分かった!任せて」

「じゃあ、私は真琴さんについていきますね」

「分かった、一緒に行こう」

真琴は紬希を連れて、留置場に向かった。


◇留置場

「先生、どうなっているんですか!?」

開口一番佐々木さんは、慌てていた。

「どうやら法務省の圧力で、訴因変更が行われてしまったようです。

裁判所も認めている今、12/6の無実の証明をするしかありません

12/6の水曜日の午後8時はどこで何をしていましたか?」

「12/6の水曜日かぁ、その時間だと家にいましたね」

「それを証言してくれる人はいますか?」

「いやぁ、家族しかいないですね」

「家族の証言は、正直裁判所から信用性に乏しいと判断されてしまいます」

「そうですよね」

佐々木は絶望にまみれた顔をしてた。

「でも、今もう一人の弁護士の桐生珠希が、別の方向から調べているので、まだ可能性はあります」

真琴にできるのは、ただ励ますだけだった。




◇同時刻 桐生法律事務所

クライアントルームに座っていた櫻井琴子は、震えていた。

珠希が着くと安心したように顔をほころばせた。

「どうしました」

「先生、実は裁判の後から知らない人から呼び出されているんです。裁判のことで話がしたいって」

琴子はスマホを珠希に見せた。

「最初は無視していたんですけど、私の個人情報まで知っているみたいで怖くなって相談しに来ました

実は、12/12に遊んだ際も、途中で愛子さんガラの悪い、見た目の不審な男となにかやり取りしていたんですよね」

「呼び出し…もしかしたら、事件に関係あるかも…

その呼び出し、私と警察でそっとついていくよ」

「そうしていただけるとありがたいです」

「大丈夫!私、喧嘩だけは自信あるんだ」

そういって珠希は、今までの武道で取ってきたトロフィーの写真を見せて、琴子を安心させた。

事務所を出ると、丁度真琴から連絡が入った。

「こっちは家にいたことしか分からなかった。

そっちがどうだ?」

「こっちは、今から琴子さんの呼び出し相手に会いに行くのに、張り込みにいくところ

渋谷のバー『ビーナス』なんだけど、今から合流できる?

でも、危険があったらいけないから、紬希ちゃんを家に送ってからにしてね」

「分かった、留置場からそちらに向かう」

真琴は紬希に家までのタクシー代を渡して、現場に向かった。



◇渋谷 バービーナス

まだ周りは明るいというのに、呼び出された地下バーの付近は日陰で暗く、さらに地下なので薄い明りのみであまり周りが見えなかった。

琴子1人で先に歩かせ、すぐ後ろを珠希がついていった。警察も呼ぶと、珠希の父の知り合いだったという渋谷署の生活安全課の刑事さんが1名ついてきてくれた。

丁度、バーに着いたあたりで真琴も合流した。

真琴は喧嘩が得意でないので、離れてみていることにした。

バーに入ると、サングラスにマスクの怪しげな男が手招きをした。

琴子は椅子に掛けると、男は対面に座り

「これの金で、これ以上裁判で証言するな。

さもなくば痛い目にあうぞ」

男は封筒に金を入れ、渡してきた。

確認すると中には、一万円札が10枚以上は入っている。

「私に黙っていろってことですか」

「そうだ。これを見てみろ!」

男が声を変えると、後ろから大柄でガラの悪い男が集まった。

手にはナイフやメリケンサックを握っている。

琴子は怯えて動けなくなってしまった。

「それ、脅迫罪です」

怯えている琴子を護るように、珠希は間に入った。

「なんだお前は!」

男は珠希の胸ぐらをつかもうとするが、握った瞬間合気道の小手外しで腕を取られてしまった。

「この野郎!」

男は珠希に襲い掛かると、珠希はいったん場を離れ、スペースのある場所に相手を誘導すると、

「おりゃ」

ハイキックで男の顔面を蹴り飛ばした。

男は、一発で脳震盪で失神している。

すると周りの男たちも一斉に襲い掛かってきた。

だが、刑事さんも参加し、武道に精通した珠希には朝飯前で軽く制圧してしまった。

ナイフを振り回されても、サッとよけて腕を向かみ柔道の投げ技で飛ばしたり、メリケンサック相手には、キレイによけて豪速のストレートパンチを顔面におみまいした。

5分もたたないうちに、場は制圧されてしまった。

倒された男に珠希は関節技を決めると、痛みでどうして桜井琴子を脅迫したのか、源愛子との関係をすべて吐いてくれた。

その後、応援の警察官が来て、全員取り押さえられた。

0.1%の事実がついに見えた。


◇東京地方裁判所 908号法廷 第4回公判

運命の法廷が始まった。

傍聴席には、源恵・源源蔵の2人が裁判の様子をじっと見つめている。

「珠希が事実を見つけたんだ。珠希が尋問していいぞ」

「分かった、やってみる」

珠希は気合をむん!といれて、立ち上がる。

「弁護人桐生珠希から質問します」

証言台にたったのは、源愛子だ。

「源さんは、検察官の主張の通り、12/6午後8時ごろ、駅ビルで被告人からわいせつな行為をされ、現金50万円を脅し取られたと。間違いないですか?」

「間違いないです」

「おかしいですね。その時間に、源愛子さんと渋谷の別の場所であっており、50万円を受け取ったという人がいるのですが…」

「誰ですか?そんな人いません」

「覚せい剤取締法違反で逮捕された権藤竜彦さんをご存じないですか?」

「権藤!?」

源愛子の顔が一気に青ざめる。

「本件事件に上がっていた50万円なのですが、12/6と12/12に覚せい剤取引に使われていたと発覚しました。

源愛子さんに覚せい剤を売買したという被疑者である権藤さんが先日逮捕され、現在警察で取り調べを受けています。

権藤さんの所持品から、源愛子さんとの取引が記されております。

つまり、本件事件は源愛子さんの覚せい剤購入の50万円の事実を隠すための、でっち上げの事件だったのです

以上より、弁護側は被告人佐々木康生さんの無罪を主張します」

検察官は項垂れ、傍聴席からはそそくさと源家族は去ろうとしていた。

「ちきしょう!!」

愛子は証言台を蹴りつけ、証言台から逃げ出した。

しかし、法廷の外で待ち構えていた警官が愛子を逮捕した。

「源愛子 覚せい剤取締法違反で逮捕する」

その様子をしり目に、

「どんなに訴因変更したって、事実は1つですよ」

真琴は真顔で裁判長と検察官に述べた。


その後、判決が出た。

「主文、被告人佐々木康生は無罪」

佐々木はやったぁと声を上げ喜び、脱力でへたり込んでしまった。

事件は無事に解決された。


次の日

「食えない連中だね」

秀次郎は、冤罪対策室で新聞を置いた。

新聞には源源蔵の大臣辞任と、今回の事件の全容が書かれたいた。

『現役法務大臣の名門女子高生娘、覚せい剤売買。その資金の行方を隠すために事件をでっちあげ 弁護側の立証により被告人は無罪』

しかし、源源蔵の圧力や法務省と裁判所がグルで、訴因変更で被告人を追い詰めたことは触れられてなかった。

唯一、検察庁がスケープゴートにされ、訴因変更の悪質性を軽く触れられている程度だった。

「今回の事件は、司法が政治権力に悪用されてしまった、司法の根幹を揺るがす事件だった。あやゆく、無実の被告人が国家権力に潰されるところだった。

しかし、真琴と珠希君の活躍のおかげで無事に是正することができた。

よくやった」

「いや3人さ、紬希が動画撮影に気付いたり、50万円の疑問を提示してくれたりしてくれたおかげだ

紬希も、よくやったぞ!

勿論珠希も、体を張ってよくやってくれた!

でも、あまり無理はするなよ。今回は怪我がなくてなによりだが…」

「まこちゃんこそ!」

3人はハイタッチをして喜んだ。

「今日はお祝いにステーキでも食べようか

渋谷の駅ビル行ったら、美味しそうなにおいが漂ってたし」

「じゃあ、腕によりをかけて、私が準備するね。楽しみにしていてね」

「「やったぁ」」

冤罪対策室では、笑い声が響いていた。


このドラマはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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